酒の肴
(……落ち着かん)
飲み始めてから、こちらにずっと向けられている視線が気になって仕方がない。彼は何も喋らず、こちらを見ているだけ。紅い瞳を揺るがすことなく、真っ直ぐに。あっちの方から珍しく上等な酒を持ってきたと思ったら、何なんだこの状況は。
折角の上手い酒が何だか味気なく感じてしまうではないか。
お互い元々喋る方ではないが、それでも酒が入れば多少なりとも会話は弾む。しかし、大体が気分の良くなった大典太が饒舌になって、それに自分が釣られる感じだ。それ故、いつもと違う大典太の態度に、正直戸惑っていた。怒っているというわけでも、機嫌が悪いというわけでもなさそうだから余計にだ。寧ろ、機嫌は良さそうにさえ見える。
話しかけていいのか、いけないのか。というか、いい加減喋れこの野郎。そんな事を酔いの回り始めた頭で思いながら、鬼丸は酒を喉に流し込み、そして、叩きつけるように猪口を畳へ置いた。
「……おい」
「ん?」
「さっきから何なんだ」
「何がだ」
「黙ったままじろじろ見やがって。何考えてるんだ。言いたいことがあるなら、はっきり言え」
苛立ちに任せて口は勝手に動き、口調は無意識に強くなる。目尻を吊り上げてきつく睨めば、大典太は少し驚いたような顔をしていた。何を怒っているんだ、というような。それが余計に苛ついて、思わず舌打ちをしてしまう。我ながら大人気ないと思うが、燻る苛々をどうしたらいいのか分からない。
「くそっ、酒が不味い」
「そう言うなよ」
憤懣やる方ない自分とは正反対に、大典太は至って穏やかだった。気にも留めないという体で、徳利から猪口に酒をなみなみ注ぐ。そして、それを一気に飲み干し、彼は口を開いた。
「あんたを肴に酒を飲みたいと思ってな。気を悪くしたか」
「……なんだそれは」
「たまには静かに飲むのもいいだろう」
「なら、最初からそう言え。言わないと分からん」
陰気なんだよ、と付け加えると、あんたもなと返された。
「……で、肴を見るだけで満足なのか?」
「まさか。食うに決まってる」
そう言って、のそりと身を乗り出してきた男が、噛み付くように口付けてくる。先程までの静けさが嘘のような荒々しさに呑まれ、伸しかかってきた重みを愛おしく思いながら、男の背中へ腕を回す。
その晩、空になった二つの猪口が、再び酒で満たされることはなかった。
絶倫はどっちだ R18
「……おい、また後ろからするのか」
「嫌いじゃないだろ」
「……好きでもない……っ、ん」
うつ伏せにされ、背中に大典太の胸板がぴったりとくっつく。しっとりとした肌の感触と少し高めの体温が心地よくて、ふ、と小さく息を吐いた。もうこのまま寝てしまいたい。でも、そうはさせてもらえない。
「力、抜いてろ」
尻肉の間を既に固くなったものが、ぬるりと滑る。さっき出したばかりなのに、何でもうそんなに元気なのか、呆れを通り越して感心する。それに付き合っている自分も大概だが。
くぱりと入口の周りの肉を割り開かれ、微かに開いたそこへ濡れた先が押し付けられる。何回か出されて、柔らかくなっているそこは、一番太いところを難なく飲み込んで、鬼丸の中を奥まで満たした。互いの身体を密着させて、繫がっていることに充足感を覚える。体勢的に少し圧迫される感じはあるが、悪くはない。耳元にかかる大典太の息も少し荒くなっていて、彼の興奮が直に伝わってくる。
「動いていいか……?」
「いちいち、聞かなくていい……っ、あ!」
ゆるく揺さぶられただけなのに、思わず声が出てしまう。密着した体位のせいで、奥のイイところに当たり、背筋がびりびりと甘く痺れる。もう何回か果てているにも関わらず、身体はまた新たな快楽を拾うことをやめようとしない。
「う、ん……っ、ぁ、あ……ッ」
「あんたのここは、ずっと柔らかいな」
「あっ……お、まえが、好き放題、するから……」
「……そうか。それは悪かった」
悪いとか思ってないだろう! 心の声を口から出そうとしたら、ただの情けない喘ぎ声にすり替わった。
蜜月の関係になってから、声の調子から何となく彼の感情を汲み取ることが出来るようになった。今のは明らかに楽しんでいる風だった。腹が立つし、苛々する。しかし、そんな刺々しい気持ちも、今は簡単にかき消されてしまう。
「あぁあっ、ん……っ、あ、あ!」
ぱちゅぱちゅと叩きつけるように腰を激しく落とされて、奥をめちゃくちゃに突かれまくる。そこは、駄目なのに。頭がどうにかなりそうなくらい、気持ちよくなってしまうから。じわりと鈴口が暖かくなるのが分かる。そして、それが身体の下にある敷布をじっとりと濡らしていることも。大典太が動く度に、布地に押し付けられた陰茎も擦れ、内も外も何もかもがぐずぐずに溶けていく。馬鹿みたいに出てくる恥ずかしい声を抑えきれない。せめて、それだけでもどうにかしようと、枕を抱き込もうとしたら、思わぬ刺激に襲われた。
「ひあっ!?」
「っ、締まる、な……」
「や、やめ……そこ、さわ、るな……っ」
大典太が触っているのは、鬼丸の角だった。根本から先へすりすりと優しく撫でている。
「あんた、ここも感じるのか?」
「ン、ぁ……ち、が……ぅ、ぁああっ」
角をきゅっと握られて、中のモノを反射的に締め付けてしまう。そうすることで、余計に感じやすくなった中をゆるゆると掻き回されて、意識が白く飛びそうになる。瞼が熱くなり、目尻から溢れたそれが、ぽたりと敷布に滴り落ちた。背後から押さえつけられて、一方的に与えられる快楽を逃すすべもない。角への愛撫を続けられたまま、ごりゅ、と奥の性感帯を陰茎の太い部分で抉られ、再び高みへと押し上げられた。溜まったものが一気に溢れていく。
「あ、ぁ、ああ……ッ」
何回目の絶頂なのか、もう分からない。数えたくもない。敷布は吐き出した精液でべとべとになり、まるで粗相をしてしまったような濡れ具合に恥ずかしくなる。まだ陰茎はぴくぴくと震えて、吐精の余韻を引きずっている。ぐったりと突っ伏して、息を整えていたら、不意に身体を横向きにされ、片脚を持ち上げられた。まだヒクついているそこに大典太のモノが擦り付けられる。その固さと言ったら、まったく衰えていない。
「すまん。まだイけてないから、もう少し」
「あ……、待て、ま、まだ、駄目だっ」
「すぐ終わる」
大典太の言う「すぐ」は、鬼丸にとって「すぐ」ではない。今まで何回それで泣きを見たことか。大典太の一回は鬼丸にとって三回だ。持久力が半端ない。それがいい時もないこともないが、少なくとも今は大典太の持久力に殺されかかっている。閨事で重傷とか、恥さらしにも程がある。そんなことを考えている間にも、熱い肉塊はずふずぶと体内へ再侵入してくる。
「あ、う……っ、あ……」
ぐい、と脚を広げられて、結合はより深くなる。雁首が敏感になっている肉襞をずるりと撫でて、それだけでもまた達しそうになった。ずっと気持ちいいのが続いて、指の先まで溶け落ちるような感覚に陥る。そんな状態の身体を容赦なく突き犯されるのだから、正常な思考など彼方へと吹っ飛んでしまう。
「あっ、あ、んんッ……ぁ、あ……!」
開きっぱなしの口から出てくるのは嬌声ばかりだ。恥ずかしくて、情けないほどに媚びた自身の声に嫌悪を抱くものの、こんなに激しくされたら、抑えようにも抑えられない。それに、声を我慢したらしたで、もっと聞かせろと余計に責められまくるのは目に見えている。どちらにしろ、鳴かされてしまうのだから、従順になったほうが楽だ。この男の前ではすべてを曝け出しても構わない、と思うぐらいに溺れている自覚はある。
「あ、ンん……あぁ……、そこ、もっ、と……」
「……ここ、好きだな」
「ん……ッ、あ……す、き、きもち、いい……」
奥を穿っていた肉茎の先が、浅いところの性感帯をぐりぐりと強く抉ってくる。奥を突かれるのも悪くないが、直接的な快感を感じられる前立腺裏の方が好きだった。緩急をつけながらそこを何度も可愛がられて、もうすっかり鬼丸は骨抜きになっていた。突かれているうちに多分何回かイッているが、イきすぎて、イッたかどうかも分からないぐらい体感が麻痺してきている。じゅぷじゅぷと結合部から聞こえる水音と喘ぎの体もなしていない湿った呼吸音が重なり合うばかりだ。気持ちよすぎて、何も考えられない。水中を揺蕩っているような心地良さに浸っていると
「こっちも、可愛がってやる」
と脚を抱えていた大典太の手が、放ったらかしにされていた鬼丸の陰茎へと伸ばされて、精液と先走りでぬるつく先をちゅくちゅくと扱く。陰茎の先端は鬼丸にとって泣き所のひとつだった。ゆったりとしていたところに、急な愛撫を加えられて、身体が大袈裟なくらいに跳ねた。刺激から逃れようと身を捩らせるが、動くなと言わんばかりに弱いところを集中的に責め立ててくる。先の割れ目に親指を捩じ込まれ、体液のぬめりをかりて敏感なそこをぬるぬると擦られる。
「あぁあ……っ、や、め……、ぁ、あ!」
陰茎を弄くられている間も、律動は止まらず、前立腺裏をぐいぐいと押し上げてくる。身体の中も外も痛いぐらいの快感に支配されて、目の前にチカチカと火花が散った。それと同時に尿道口がじわっと熱くなる。割れ目を抉るように大典太の爪先が触れると、次の瞬間には透明な体液がぴしゃりと勢い良く飛び散った。その後も体液は二度三度と吐き出されて、敷布を広範囲に濡らしていく。排尿してしまったのではないかという絶望と強烈な快感を伴う排泄感に鬼丸の頭の中はぐちゃぐちゃになった。
「ぁ、ああ……ぁ、や……見る、な……」
「大丈夫だ。気持ちいいだけだからな」
耳にかかる熱い吐息とひどく優しい声。それとは裏腹に、下半身は凶悪な動きで、今度は奥ばかりを狙って犯し始めた。陰茎を愛撫する手も止めないままで。
「んっ、ア、あ、もう……だめ、だ……!」
悦すぎて死んでしまう、と本気で思った。
そして、大典太も限界が近いのだろう、背後からふうふうと聞こえる荒い呼吸音は獣のよう……いや、獣どころではない。奴は鬼だ。限界などとうに超えている身体を揺さぶり続ける大典太こそ、鬼なのではないかと途切れかかった意識の中で思っていたら、ぱちゅん! と不意打ちのごとく強かに腰を打ち付けられた。びゅるっと奥に当たる精を感じた鬼丸は、声を出すことすら出来ずに、中イキしてしまった。尿道口からも再び水っぽい体液がぽたぽたと滴り落ち、大典太の手をびしょ濡れにしている。
「や……だ、また、出て、る……」
「小便じゃないから安心しろ」
「あんしんできるか、ばか……。なんなんだ、これ……」
「潮、とか言われてるが、俺もよく知らん」
「知らないくせに……うぁっ」
ずっと入りっぱなしだった剛直がようやく引き抜かれ、濃い結合から解放される。繋がりは無くなったものの、大典太は相変わらず背後から抱きついていて、離れようとはしない。前に回された手がゆっくりと動いて、汗ばんだ肌を優しく撫で始めた。
「……もう……今日は、むり……」
「分かってる。触るだけ」
と言いながら、大典太の手は胸から腹を撫で下ろし、太腿の内側を絶妙な力加減で撫でてくる。内腿の感触を味わうように撫でると、陰嚢を軽くすくい上げてから胸へ戻り、尖った乳首を掌で掠めた。その手は再び下半身へと下りていき、撫でられることで、兆しを見せ始めた陰茎に指が絡んだ。
「んっ、触るな……」
「嫌か?」
陰茎を触っていた手が、陰嚢を柔く揉み、そこからさらに会陰をなぞり、後口を擽ってきた。その刺激でひくりと後口は収縮して、鈴口からは先走りが滲んだ。もっとしたいとでも訴えるような身体の反応。もう何回もして、イッてるのに。これ以上は無理だとさっき自分で言ったではないか。どこまで貪欲なのだろう。
「い、やだ……」
「……何で」
「っ、また、したくなる……」
ひゅ、と後ろから息を呑む音が聞こえた。
くるりと仰向けにされて、上に覆いかぶさってきた大典太が、鬼丸の脚を掴んで乱暴に割り開いた。そのまま脚を肩にかけられ、膝が胸につくぐらいまで身体を屈曲させられる。ちゅく、と濡れた音を立てながら、パンパンに張った雄が蕩けた後口をこじ開け、また体内へと入ってくる。深いところまでみっちりと満たされると、先の行為を無意識に期待した鬼丸は熱い吐息を漏らした。
「あ、ぁああ……」
「……鬼丸」
「う、んっ、んン……っ!」
口を吸われるのと同時に、上から腰を落とされて、それでまた達してしまった。吐き出された精液が胸と腹にぱたぱたと零れ落ちる。
立て続けの絶頂に気をやりそうになっていると、涙で霞む視界に、微かな紅い光が揺らめいて見えた。当の本人が気付いているのかどうかは定かではないが、大典太は気の高ぶりで目の奥に光を帯びる。
黒髪の隙間から覗く深い紅色に見下ろされて、ある種の死を覚悟した鬼丸は、もうどうにでもしてくれ……と全てを大典太に委ねた。
性豪男士による乾く間もない交わりは、空が白むまで続けられた。
「……玉が痛い」
「あれだけ出せばそうなるだろう。こっちは腹の具合が悪い」
「……何か、あんた……血色良くないか?」
「そうか? お前は陰気さが倍増しになってるな。顔が土気色だ」
「……おかしい」
「何がだ」
「いや、何でもない……」
昨夜、数え切れないぐらいヤったにも関わらず、事後の疲労が全く感じられない(おまけに肌ツヤも良くなっている)鬼丸に対して、困惑を隠せない大典太だった。
軽装の彼
落ち着かないな……。
傍らで酒を飲んでいる鬼丸を見ていたら、そう思わずにいられない。話しかけると妙によそよそしく返してくるし、あまりこちらと目を合わそうともしない。おまけに酒の進みがやたら速い。今飲んでいるのは、安酒なんかではなく、町中の酒蔵で手に入れた限定物の大吟醸だ。いつもはちびちび飲めとか、けちくさいことをいうくせに何なんだ。鬼丸が空になった盃に酒を注ごうとしたので、慌てて止めた。全部飲まれてしまうという惜しさよりも、鬼丸の身体のほうが心配になったからだ。彼を見る限り、かなり酔いが回っている。白い頬が頬紅でもつけたかのように色づいているのが、その表れだ。呼気もはっきりと分かるぐらい酒臭い。
「……やめとけ。潰れるぞ」
「かまわん」
少し掠れた声に、舌足らずな口調。呂律が完璧に回らなくなる一歩手前だ。へべれけめ、と呆れ混じりに呟いて、鬼丸の手から酒瓶と盃を取り上げた。
「かえせ……」
取り返そうと鬼丸は腕を伸ばすが、酒で既に制御不能になっているらしい掌は、虚しく空を泳いだだけだった。
「駄目だ。今日はこれ以上飲まない方がいい」
「けちくさいやつめ」
「……あんたにけちと言われるとはな」
「けちだ、けち」
「……やけに絡むな。というか、今日のあんた、おかしいぞ」
「……誰のせいだと思っているんだ」
「どういうことだ」
そう尋ねると、鬼丸は少しムッとした顔をして、大典太が肩にかけている羽織の裾を無言で引っ張った。
「……これ」
「……? ただの羽織だが」
「そうじゃない。お前の服装が……」
鬼丸のその言葉で合点がいった。そういうことか。
「……どうせ俺には似合わんさ」
せっかく、主に誂えてもらったものだからと、一日中を軽装で過ごしていたわけだが、どうやら鬼丸は、この出で立ちが好みではないらしい。鬼丸の態度がよそよそしい理由を察して、僅かに気分が落ち込んできた。周囲の反応がかなり良かった(特にソハヤと前田)から、浮足立っていたのかもしれない。
盃の底にほんの少し残っていた酒を飲み干し、盃を畳床に置いた。すると何やら念仏のような独り言が聞こえてくる。
「……誰も似合ってないなんて言ってない」
「……なんか言ったか?」
ボソボソと喋るものだから、思わず聞き返してしまう。
「……おれを殺す気か」
「は……?」
「くそっ……こんな、こんな……」
「お、おい……」
いきなり軽装の襟元を掴んできたかと思ったら、また鬼丸がぶつぶつと何か言い始めた。ひどい酔っぱらいだ。そもそも、何故怒っているのか。鬼丸の心がさっぱり分からない。
「……鬼丸。手を離してくれないか」
「こんなの……おれの知ってるお前じゃない」
「え……?」
「卑怯だ……」
襟元を掴んでいる手にぐいっと引き寄せられ、そのまま歯がぶつからんばかりの勢いで口付けられる。ふわりと広がった甘い酒の匂いに、一瞬目眩がした。自分も結構酔っているのかもしれないと、この時初めて思った。
「……今日一日気が気じゃなかった」
「……何故だ?」
「っ、まだ分からんのか」
「分からん」
「……格好よすぎて腹が立つ」
とろんとした瞳で見つめられて、言われたその台詞の破壊力といったら半端なかった。萎れかけてた心は一瞬で潤いを取り戻したが、少し動揺もしていた。「格好よすぎ」なんて言葉を鬼丸の口から聞けるとは思っていなかったから。酔いのせいもあるかもしれないが、こうもあけすけに褒められると嬉しくもあり、照れくさくもある。腹が立つと付け加えるあたり何とも鬼丸らしい。
「鬼丸……」
「だから、早く脱げ」
「何でそうなる」
「……おれが脱がしたいんだ」
「……ああ、そういうこと、か」
「……きょうは、なにをされてもいい」
お前の好きなようにしろ、と鬼丸の手が大典太の肩から羽織を落とした。
実質、めちゃくちゃにして宣言をされた大典太は、今夜は寝かせてもらえないだろうな、と腹を括るのだった。
えっち練習用ワードパレットNo.18/「浴槽」「四つん這い」「待てない」R18
ふわふわと水面に揺れる豊潤な白い泡。ばしゃばしゃと湯船を大きく掻き回すと、まだ泡はふわりと増えて、浴槽からこぼれ落ちていく。鼻腔を擽るチョコレートの甘い匂い。乱から貰った泡の入浴剤だが、中々に悪くない。些か泡立ち過ぎな気もするけれど、ふんわりとした泡が肌に触れるのが心地いい。泡のおかげで湯も冷めにくいのか、温かいままだ。
ここで手足を思い切り伸ばしたいところだが、そうも出来ない状態なのがいささか不満ではある。
何故なら自分よりも体躯の大きい男が対面にいるからだ。さほど大きくもない浴槽に大の男二体がひしめき合っている。
「……狭い」
「仕方ない」
「……いい加減湯船から出たらどうだ」
「なんで俺が。後から来て、無理矢理入ってきたのはあんただろう」
「お前がすぐに出ると思った」
「……自分勝手にも程があるぞ。ヘンテコな入浴剤は入れるし」
「ふん」
泡を掬い、ふうっと大典太に向かって吹きかける。
飛んできた泡に大典太は顰めっ面をするが、何も言っては来なかった。身動げばちゃぷんと波立つ水面。揺れる泡の隙間から、大典太の膝が覗いている。にゅっと伸びているそれを見て、無駄に脚が長いことだ、と思うと同時に、ちょっとした悪戯心がわいてきた。泡で底が見えない湯船の中、足をそろりと動かした。目指すは、そう。大典太の股間だ。
ある程度伸ばしたところで、つま先がふにゃりと柔らかいものに触れる。
「っ、おい……」
焦ったような大典太の声に思わず口端を吊り上げた。
「だらしなく脚を広げてるからだ」
足の裏で強弱をつけて擦ったりしているうちに、柔らかさはあっという間に無くなっていった。すっかり固くなったそれを両足の裏で挟んだり、先っぽを爪先で突いたりして弄ぶ。
「あんたなぁ……」
熱の篭った声とともに腕を掴まれ、強く引っ張られる。腕の中に閉じ込められたら最後、逃れることはできない。ありったけの力を込めて腕を振りほどき、立ち上がろうとしたが、つるりと足が滑ってしまう。不幸にも泡風呂入浴剤のせいで浴槽の底が滑りやすくなっていたらしい。
ばしゃん! という派手な水音ともに鬼丸は浴槽の中で転けてしまった。反射的に手は浴槽の縁について、顔面から湯船に突っ込むのは避けられたが、大典太の方へ尻を突き出した四つん這いの格好になってしまった。つまり彼の眼前には、鬼丸の尻があるわけで。
「……いい眺めだな」
溶けかけた泡に塗れた尻を大典太の手にがっちりと鷲掴みにされる。そのままむにゅむにゅと揉みしだかれて、ふ、と生暖かい吐息が後口にかかった。逃げなければ……! と思うのに、身体が何故か動かない。
「ま、まて……」
そう言う自分の声にもどこか期待が混じっていて、先をねだるように尻を揺すってしまう。
「待てない」
尻肉を割り開かれ、ぬるりと生暖かいモノが後口に這わされる。軟らかく弾力のある舌がすぐに入口をこじ開けて、熱い粘膜を直接掻き回す。前にも手が回されて、泡でぬるつく陰茎をくちゅくちゅと擦られ、鬼丸は背をしならせて喘いだ。
「やっ、ぁ、だめ……、ぁ、ああっ!」
後ろに指も入れられて、浴槽を掴んでいた腕からかくりと力が抜ける。そのタイミングで大典太が、ふにゃふにゃになっている鬼丸の身体を抱き寄せて、腕の中に閉じ込めてしまった。
背後からぎゅっと抱き締められてしまえば、身動き一つ出来なくなる。憎らしい程の馬鹿力……戦闘以外で発揮するなと言いたい。
「……離せ」
「駄目だ」
大典太の手が鬼丸の顎をすくい、後ろを振り向かせる。湯気で湿り気を帯びた唇に口付けられ、浴室内に互いの口を吸い合う水音が大きく響く。口を吸ってる間にも手は胸や腹を撫で回してきて、嫌でも身体は淫らに高ぶっていった。
「あ、んんッ、あ、ぁっ」
「しっかり温まってから出ような」
ぎゅうと乳首を摘まれたら、もうなにも言い返せなかった。
――そうして、身も心も温まった頃、湯船の泡は激しい動きに負けてほとんどが消え失せ、すっかりぬるくなった湯だけが残っていた。
えっち練習用ワードパレット/No.07「決壊する」「指の腹」「いやの反対」R18
隙だらけだな、と熱っぽい吐息とともに、耳元で囁かれる。背後から前に回された腕を引き剥がそうとしても、逃さないと言わんばかりにきつく抱きしめられた。そうして藻掻いている間に、癖の悪い手が服の隙間へ差し込まれ、直に胸へと触れてきた。女ほどの容量もなく、柔らかくもない肉を、下からすくい上げる様にして、掌の中でむにゅむにゅと揉みしだかれる。
「んっ……、やめろ……」
不埒な動きを止めたくて、男の手首を掴んだが、仕返しのように乳首をきゅっと摘まれた。乳輪から乳頭にかけて、扱くように愛撫されると、手に込めようとしていた力はいとも簡単に抜けてしまう。ただ手首を掴むだけで、抵抗にもならない。寧ろ、もっととねだっているような状態になってしまった。
「く、ぅ……あ、んんっ」
「……あんた、こうされるの好きだよな」
「ちがっ……いや、だ……ッ」
「いやの反対はイイって、知ってるか?」
何を、と反論しようとしたが、不意に乳首を強く押されて、頭の中で考えていた悪態は、意味をなさない喘ぎ声へとすり替わった。文句の一つでも言ってやりたいが、口から出てくるのは甘ったるい吐息ばかりでどうにもならない。くにくにと指の腹でしつこく捏ねられると、下半身がじわじわと熱を持ち始める。あそこが張り詰めていくのを感じて、思わず太腿を擦り合わせた。その刺激で下着がじっとりと濡れていくのを感じる。恥ずかしい。はしたない。乳首への愛撫だけで、こんなになっているのを大典太に知られたくない。そう思っているのに、やたら察しのいい彼は、片方の手を鬼丸の下半身へ伸ばして、スラックスの前を慣れた手つきで緩めた。下着もずらされて、恥ずかしいぐらいに屹立したそこが、ぷるんと姿を覗かせる。先端の割れ目は先走りで濡れ光り、自身の昂ぶりを嫌でも知ってしまう羽目になった。
「あ……」
「こんなに濡らしてたら、胸だけでも達けそうだな」
「そ、そんなの、むり……っ、あうっ!」
再び始まった胸への愛撫に、身体がことさら大きく跳ねる。荒っぽい動きのせいで、薄手の服は胸の真ん中辺りで撓み、あらわになった白い胸が、大典太の手の中で卑猥に歪む。
「ふ、ぁ、あ……、く……っ」
すっかり色濃く固くなった乳首も指先で弾かれ、摘まれて、与えられる快楽の強さに、視界がぼんやりと水の膜で潤んでいく。目尻に溜まった涙が頬を伝う頃、大典太が耳朶を食み、
「……鬼丸」
と名を呼んで、甘い言葉をそっと吹き込んだ。行為の中で言われると一番弱い、その言葉。胸の奥が疼き、身体の熱は一気に上昇して、腰の辺りにぞくぞくと甘い痺れが走った。
「ぁ……、あ……」
触れられていなかった陰茎から、白濁がとろりと溢れ出る。勢いこそないものの、ぴくぴくと脈打つ度に吐き出される精液は、陰茎を伝い落ちていく。吐精でぱっくりと開いている鈴口を大典太の指がつう、となぞった。
「んんっ……」
「どうする? ここでやめにしておくか?」
敏感になっている裏筋を辿られ、がくがくと膝が震えた。情けないことに、大典太の支えなしではもう立っていられないぐらい骨抜きにされてしまっている。さっきから指で弄ばれている陰茎は、まだ張り詰めたままで、おさまる気配はない。それどころか、高まった性感のせいで、身体はより深いところへの刺激を欲しがっている。
早く、早く、熱くて太いものでお尻の奥まで掻き回して、めちゃくちゃに犯してほしい。おっぱいもおちんちんも大きな手でたくさんいじめてほしい――決壊する理性が、自我も恥じらいも、何もかもを思考の外へと押し流す。
「ぁ……、もっと……したい……」
恍惚とした声でそう言うと、首筋に柔らかい息が吹きかかった。背後の大典太はきっと微笑っている。
いいようにされて、憎たらしいし悔しい。けれど、今はそんなことどうでもいい。
すっかり蕩けてしまった頭と身体は、彼の好きなようにされたいと望むばかりだった。
紅をさす
「……頼む」
少し気だるげな声と共に銀色の小さな入れ物を手渡される。二振りの間では、すっかり馴染んでしまったこの行為。最初にやってみたいと言ったのは自分だったが、鬼丸は思いの外あっさりとそれを受け入れてくれた。それ以来、寝起きにこうして、鬼丸の瞼に紅をさすことが、自分の役目となっていた。
一寸ほどの大きさの器物には桜の模様が緻密に施してある。蓋を開けて中身を見ると、幾度かの使用で紅は抉れていた。抉れた箇所は少し避けて紅を薬指に少量つけ、鬼丸の右瞼に指を近づける。静かに閉じられた瞼の真ん中から目尻に向かってそれをゆっくり伸ばす。初めてのときはべったりつけてしまって怒られたな、とふと思い出した。その時に比べれば、随分と上手くなった気がする。眼窩の窪みに沿わせて全体的に薄くつけてから、目の際へ向かって陰影が深くなるように重ねていく。そうして、目尻の濃くなったところは小指で少し暈す。目元を柔らかく見せるための、密かなこだわりだったりする。鬼丸には内緒にしているが。
「……出来たぞ」
指に残った紅は懐紙で拭い、容器の蓋裏にある鏡を鬼丸に向けた。血色を帯びた白い瞼が、ゆっくりと開かれていく。
この瞬間に、『自分だけが知っている鬼丸国綱』は居なくなる。
「……上出来だな」
「……礼ならこっちがいい」
そう言って、緩やかな弧を描いている鬼丸の唇に軽く口付けた。
「おい……」
紅をさしていない筈の頰がほんのりと染まっているのは、恐らく気のせいではない。昨夜も口に出すのが憚れるぐらいの行為をたくさんしたにも関わらず、こんな不意打ちの口付けで頬を赤らめる初心さに、理性を打ち砕かれそうになる。押し倒したい衝動をぐっと堪えて、蓋を閉じた紅の入れ物を鬼丸に渡した。
「そろそろ、朝餉の時間だ」
「む……そんなに腹が減っていないぞ」
「食堂に行けば嫌でも減ってくるだろ」
「行くのが面倒くさい」
「何言ってんだ。俺は先に行くぞ」
鬼丸が何か言おうとしていたが、敢えて気づかない振りをして立ち上がった。どこか不満そうな鬼丸の顔を一瞥して、部屋から出て行く。
閉じた障子の向こうから、ぼすん、と布団へ倒れ込む音がした。
自覚と鳥避け
何かが連続して破裂するような音が、突如鳴り響いた。厨の窓が微かにびびり、鬼丸は胡瓜を切っていた手を思わず止めた。すると、再びパンパンという破裂音が外の空気を揺らした。火薬が爆ぜる音と言ったら良いのか。鉄砲に近い気もするが、音の重さが違う。
「……何の音だ」
「ああ……鳥避けの爆竹を燭台切が鳴らしてるんだろう。農作物を荒らすからな」
米を研ぐ手を止めないまま、傍らに居る大典太が答える。
「鳥避け……?」
「獣はああいう大きな音が苦手なんだそうだ」
「ほう……」
そうなのか、と納得しつつも、鬼丸は「鳥避け」という言葉が妙に引っかかっていた。鳥避け、鳥避け……と頭の中で反芻した後、
『雀が俺を見て逃げていった』
と内番中に彼がぽつりと漏らしていた嘆きを思い出した。大典太光世に纏わる逸話も踏まえれば、鳥避けならこいつが適任だろうと考えていたら、ふと脳内にとある情景が浮かんだ。そこで鬼丸は思わず吹き出してしまった。急に肩を震わせて忍び笑いを始めた鬼丸に、大典太は眉を顰める。
「おい、何だ。急に」
「……いや、鳥避けなら、お前の姿を模した案山子の方が効くんじゃないかと思ってな」
「は?」
「鳥止まらずの蔵、だったか?」
「……確かにそうだが……俺の案山子とか……」
「獣どころか野菜泥棒も近付かなくなって、一石二鳥だろう」
「……あんたな」
「一度作って試してみるか」
「勘弁してくれ」
「冗談だ」
「あんたが言うと、冗談に聞こえない」
「そうか」
ふ、と鬼丸は小さく笑うと、切りかけていた胡瓜に再び包丁を入れた。
とんとんと小気味よく響く音に、再び外で鳴らされた爆竹の音が交じる。
鳥は完全に追い払われただろうか。そんなことを思いながら、大典太は鬼丸の方をちらりと盗み見た。
窓から差し込む西陽の茜色が、鬼丸の横顔を普段よりも柔らかく映していた。
その美しさについ見惚れた大典太が、米を研ぎ汁ごと流しにぶちまけるまで、あと五秒。
ローション風呂 R18
とりあえずローション風呂に二人で入ることになったのだが、滑った拍子に先っぽが入ってしまった!
「おいっ、早く抜け、馬鹿!」
「滑るんだよ……!」
「っ、もういい……おれが……」
大典太の肩に手を置いて、鬼丸が立ち上がろうとするも、やはりローションのぬめりは半端ない。手も足も滑って、抜くどころかずっぽりと奥まで入ってしまったのだ。
「んんっ!!」
「うぐっ……」
のしかかって来る鬼丸の重みと浴槽に挟まれて、大典太は窒息しそうになった。しかし、陰茎を包むのは紛れもなく鬼丸の温もり。自分のあれが鬼丸の中にしっかり入っていることを嫌でも自覚してしまう。きついけど、思ったより柔らかくて、気持ちいい。そのせいで、陰茎は萎えるどころか、バキバキに固くなっている。
「んっ、な、んで……固くしてるんだ……っ」
「仕方ないだろっ……」
「やっ、うごく、な……、ああっ!」
「腰が、勝手に……ッ」
ぬめぬめするけど、腰は何故か動く。鬼丸の中が気持ちよすぎて止められない。
「ひあっ、だめ……、おく、当たって……!」
上擦った、今にも泣きそうな鬼丸の声が、ちゃぷちゃぷと波打つ湯の音と共に耳元へ吹き込まれる。なんて声出してるんだ。そんな声を聞いたら、余計に歯止めが効かなくなる。鬼丸の脇に手を入れて、一度繋がりを解いて立ち上がらせた。そのまま後ろを向かせると、浴槽の縁を持たせ、尻を突き出した格好の鬼丸に再び怒張をねじ込んだ。
「あ、ぁああ!」
ずぷんと再び入れられた雄に、鬼丸は白い背を撓らせる。きれいな背筋の窪みをつ、となぞると中がきゅうと締まった。
「ぁあ、う……、おお、でんた……」
肩越しにこちらを見る鬼丸の顔はすっかり淫らに蕩けていた。先をねだるように白い尻がいやらしく揺れるのを見たら、鼻の奥がツンと痛くなった。興奮が一気に高まって、頭に上る血が沸騰したように熱くて、くらくらする。
「おにまる……っ」
「あっ、あぁ!」
逃げられないように鬼丸の腰をがっちり掴んで、無茶苦茶に中を突き犯した。肌を打つ音と鬼丸のはしたない声が浴室に響く。ここは、いつ誰が来てもおかしくない。それは分かっているけど、もうどうにもならない。何故なら童貞なので止めどころが分からず、突き進むしかないのだ。
「ん、ぁあ、あっ、いい……きもち、いい……っ」
「は……、俺も、きもちいい……あんたの中、最高だ……」
動きを少し緩めて、奥を小刻みに突きながら揺さぶった。すると鬼丸はより淫らな声を上げ、悦びの涙を溢れさせた。
「あぁッ、ん! もう、イッ……、ぁ、でちゃっ……ぁ、あああ!」
貪欲に吸い付いてくる内壁の悦さに引きずられるまま、鬼丸の中に思い切り出した。鬼丸の脚から力が抜けて、その場に崩れ落ちそうになるのを、腹に手を回して支える。足元の湯に白濁がぽたぽたと落ちて、歪な形になったそれは、もろもろと湯の中に溶けていった。 足を動かすと、ぱしゃんと聞き慣れた音がする。
風呂の湯はいつの間にか、普通の湯になっていた。
――というのが、今朝方見た夢だった。妙に生々しかったおかげで、久しぶりに粗相をしてしまっていた。汚れた下着を洗っているときの自己嫌悪感が凄まじく、気分は最悪だった。確かに夢の中で気持ちよかったけど、鬼丸の尻穴で童貞を捨ててしまうとかあり得ないにもほどがある。あり得ないというなら、風呂の湯があんなおかしな液体になるのもそうだ。そんなことあってたまるか。しかし、あり得ないと思っていたことが、その夜の風呂の時間に起こるのである。
「……何だこれ」
薬研から渡された入浴剤を入れたら湯船がおかしな状態になった。湯の質を変えることで保温効果を高め、疲れを取れやすくする……とのことだったが、これは、どう見ても夢に出てきたあの怪しい湯だ。
試しに手にとってすりこんでみるとぬるぬるぬるぬる滑る。確かに保温効果はありそうだが、こんなのに浸かったらどうなるのやら。
(これは……駄目だな……)
湯を増やして希釈すれば、多少ぬめりがマシになるかもしれない、と湯の栓を緩めようとした時だった。
からり、と浴場の扉が開く音がした。ぺたぺたと近付いてくる足音。それを聞いて、急速に高まっていく心臓の鼓動。呼吸が浅くなり、喉に乾きを覚える。恐る恐る、後ろを振り向いた。
(嘘だろ……!)
規格外のモノ R18
寝間着姿の二振りが膝を突き合わせて座っている。彼らの間にあるのは小さな白い箱。箱には「零零参・極大」の表記。その箱を無言のまま、大典太と鬼丸はじっと見つめていた。
「……これは何だ」
先に大典太が口を開いたら、鬼丸は少し気まずそうに目線を逸らした。
「避妊具だ……」
鬼丸の答えに、その箱の中身が何なのか察した。男性器を薄い膜で覆う型の避妊具だろう。大人向けの万屋で目にしたことがある。
「避妊? 別に俺達は孕んだりしないだろう」
「……本来は避妊の用途だが……その、後処理が楽になると聞いたから……」
ごにょごにょと珍しく言葉を濁す辺り、鬼丸も何か気まずいと思っているのだろう。確かに最初から今まで生でやりまくってたから、改めて着けろと言われても、なんで今更と思わなくもない。
「後処理が面倒なら俺がしてやるが」
「ばっ……、そんなことしなくていい」
実際、何度か後処理を手伝ったことがある。しかし、後処理中にムラッとして、結局、最初からやり直しになることが殆どなので、鬼丸としては気が進まないと思われる。
「……外に出せばいいんじゃないのか」
「……たまに失敗するだろう」
「……まあ、な」
気持ちが高まるとどうしても、中に出したくなってしまう。仮に失敗しても、せいぜい、蕩けた顔で「下手くそ……」と言われるぐらいで、怒られたことは一度もなかった。怒らない鬼丸に甘えていた部分は確かにある。観念したように大典太はため息をついた。
「……とりあえず、着ければいいんだな」
そう言って、置かれた箱を手に取り、封を開けた。箱の中から個包装になった避妊具を取り出す。それをまじまじと見つめながら、思わず
「これ……俺のに入るのか?」
と言ってしまった。
「……大した自信だな」
避妊具の輪の大きさが明らかに自分のものよりも小さい。多少伸びたりはするだろうが、それでもきついんじゃないかと思う。
「多分、破れるぞ」
「一番大きいのにしたんだが」
「これでか……?」
「……お前の大きさがおかしいんだ」
「あんたのも大概だろう」
「おれの大きさはどうでもいい。早くそれを着けろ」
着けたら明らかに痛そうなので、気は進まないが、鬼丸の機嫌損ねてヤれなくなるのも嫌だ。寝間着の裾を割って、下着から陰茎を出すと、雑に扱いて勃たせる。十分に固くなったところで、個包装を破いて、中身を取り出した。少しぬるっとした感触。滑りが良くなるよう表面に何か塗布されているようだ。そして、改めて避妊具の輪と自身のナニの大きさを見比べてみる。……やはり、小さい。太さが圧倒的に足りない。不安が過る。
それでも着けるしかないので、裏表を確認すると、先っぽを指でつまんで塞ぎ、陰茎へゆっくりと被せた。膜を根本へ向かって下ろそうとすると、予想通り引っかかった。亀頭の一番太い部分から先へ下がらない。輪を引っ張って拡張を試みたが、気休めにしかならなかった。
「……くっ、無理だ」
「馬鹿言うな。貸してみろ」
「痛ってぇ! 爪! 当たってる!」
「お前がしっかり広げてないからだ。こうすれば入」
――プツッ。
小さな破裂音に二振りの動きがぴたりと止まる。視線を避妊具に向けると、引っ張った箇所から見事に破れていた。
「あ……」
「ほら見ろ……破れた」
「嘘だろう……。ああ、分かった。そいつは不良品だったんだ。もう一個新しいのを使えばいい」
「同じことだ。諦めろ」
諦めの悪い鬼丸を押し倒して、足首を掴み、脚を大きく開かせた。乱れた寝間着の裾から見えたのは、淡い色の陰部だった。下に何も着けていなかったようだ。
「……いやらしいな」
「ば、か……っ、あ!」
内腿を何度か軽く啄んでから、下半身に顔を埋めた。既に半勃ちになっている陰茎には触れず、滑らかな陰嚢を優しく食んだ。
「う、んンッ!」
「……あんた、本当は中に出されるの、好きだろう?」
「なっ……ち、ちがっ」
「違わない」
「っ、ん……勝手な、ことを……っ!」
抵抗が少し強まったので、陰茎を激しく吸いしゃぶって、一気に性感を高めてやった。その後、口淫と愛撫で焦らしに焦らして鬼丸を限界まで追い詰めることにより、自分の予想が違っていないことを証明できた。翌朝、口を聞いてもらえなかったが。
そして、件の避妊具はこの夜以来、一度も使われることはなく、物入れの奥底にひっそりと仕舞われている。
雨と告白
湿った不快な空気、蛙の鳴き声、少し冷えた風、今にも落ちてきそうな曇天。嫌な予感はしていた。せめて、本丸に帰るまで保ってくれと思ったが、天にそんな願いなど届くはずもなく。無慈悲な雨は叩きつけるような勢いで降り注ぎ始めた。肌に当たると痛いぐらいの大粒の雨。足を進めるたびに、泥水がびしゃりと跳ねて、桔梗色をした着物の裾に土色が増えていく。履物なんてもう履いている意味もないと思えるぐらいに泥まみれだ。滝のような雨の中、最悪な気分でぐずぐずの地面を踏みしめて歩いていたら、道すがらに古びた納屋を見つけた。そこには雨宿りに丁度よさそうな軒下もある。大典太が「あそこで雨宿りをしよう」と言ってきた。既にびしょ濡れで、今更雨宿りをしても……と思ったが、轟いた雷鳴と稲光がほぼ同時だった為、帰るのは危険と判断して、そこで雨宿りをすることにした。
「やはりこの時期は天気が変わりやすいな」
「……だから、夏は嫌いだ」
町中で買い物をしていたときは、日差しが強く、空も高かったが、帰路についた途端にこの天気の変わりようだ。季節的なものとはいえ、突然の荒天はやはり苛々する。鬼丸は元々雨があまり好きではないから尚更だ。
おまけに今日は主に仕立ててもらった軽装を着て出かけていた。おろしたばかりのそれは、雨と泥に濡れてしまって、ひどい有様だった。ぎり、と唇を噛み締めて、袂をぎゅっときつく握りしめた。じわりと滲む雨水が、指の隙間からぽたぽたと滴り落ちる。こんなことになって……と悔しさがこみ上げて来る。天の気まぐれだから仕方ないとはいえ、自分の見通しの甘さに腹が立つ。隣に居る大典太みたいに内番着でくればよかったと今になって思う。でも、天も呪わずにはいられない。
空に雷雨を呼ぶ鬼が居たら、斬ってやるのに……そんな事を考えていたら、ふと、ひんやりとした風が肌をくすぐった。濡れた肌から体温がすうっと奪われる。冷気を感じた途端、鼻の奥がツンとして、反射的にくしゃみが出た。
「……寒いのか?」
「……別に」
すん、と鼻を軽く鳴らしたら、また鼻腔がむず痒くなる。ああ駄目だ、ともう一度くしゃみをした。少し背中がぞくぞくする。軒下に吹き込む風は相変わらず冷たくて、ぶるりと身体を震わせた。すると、不意に肩を抱き寄せられ、そのまま大典太の腕の中に閉じ込められてしまった。
「なっ、なにを……」
「……こうしたら少しはぬくいだろう」
抱き締める腕に力が篭もる。濡れた服越しに感じる大典太の体温は心なしか高い。身体が冷えていたせいだろうか。温もりが存外に気持ちよくて、ずっとこのままで……なんて柄にもない事を思い始めていた。でも駄目だ。自分は大典太と恋仲というわけでもないのだから、こんなことはいけない。
「……はなせ」
離れたい。離れないとまずい。突き放そうと胸板を押したが、より強く抱き締められて、逃げ道は完全に無くなってしまった。単純に腕力だけでは、彼に敵わないのを自身が何よりも知っている。抗うのは諦めて肩から力を抜いた。
「風邪をひく」
「……風邪なんかひくか」
何を馬鹿なことを、と思いながら、大典太の肩口に顔を埋めた。小さく息を呑む音が聞こえて、遠慮がちに伸ばされた手が濡れた髪を柔く撫でる。
「……鬼丸」
名を呼ばれ、顔を上げると、目の前に紅い光が見えた。その光が消えたと同時に唇へ触れたのは、柔らかな感触。少し冷たさを感じた唇は、触れ合っているうちにじわりと熱を帯びていった。触れるだけの口付けは、次第に深いものへ変わり、口内に熱い舌が入り込んでくる。それでも、不思議と嫌悪感はなかった。抵抗なく受け入れていることに、自分でも驚いていた。
口吸い含めた性にまつわる事について、知識はあれど関心はなく、どちらかといえば苦手で忌避の対象でもあった。それなのに、こんなことをされて、何故、今の自分は平気で居られるのだろうか。
頭上で一際大きな雷鳴が鳴り響く。それと共に瞬いた稲光が痛いぐらいに眩しかった。
(ああ、そうか。おれは……)
雨脚はさらに激しさを増して、周りの景色を白く覆い尽くす。
――雨はまだ止みそうにない。
愛の賽 R18
最近、普通の情交に飽きてしまった二振りは、大人の万屋で「愛の賽」なるものを購入した。それは三個一組になっていて、六面ある賽の面には、身体の部位や体位などが記されている。その組み合わせでその夜のやり方を決めるというものだ。
早速、購入した夜に賽を振ってみたら、「着衣」「胸」「扱く」の目が出た。
「……要はパイズリか」
恥ずかしげもなく言う大典太に鬼丸は眉を顰めた。
「女でもないのに、できるわけないだろう」
「……できんことはないと思うが」
言うが早いか、大典太の手が鬼丸の両胸を服の上からむにゅっと鷲掴んだ。そのまま脇から筋肉を寄せて、無理矢理に谷間を作る。
「おい!」
「こうやって寄せれば……いけそうだな」
胸を下からすくい上げるように揺さぶられ、鬼丸は大典太の手を払い除けた。
「何がいけそうなんだ。一人で納得するな!」
「でもとりあえず、今夜はこれでやるんだろう」
「……お前、何か楽しそうだな」
「そうか?」
どこか上機嫌な大典太に鬼丸はむすっとする。恥ずかしいのはこっちなんだと言おうとしたら、ぶちゃあっ!という濁った音ともに胸元にひんやりとした何かが落ちてきた。
「え……」
胸元を見ると服はどろっとした透明な液体に塗れていた。微かに人工的な甘い匂いがする。大典太の手に握りつぶされている容器は、液体が入っていたものと思われる。開け口からぽたりと残滓が滴り落ちていた。
「大典太!」
「滑りをよくしないとな」
「お前な……!」
なんで今日はこんなに手際がいいんだ。そもそもその潤滑剤は、いつの間にどこから出した。鬼丸が軽く混乱しているうちに、大典太は空になった容器をその辺に放り投げた。
「ほら、横になれ」
とん、と肩を押されて、鬼丸は大典太の謎の勢いに逆らえないまま、その場に寝転がった。
「くそ……するなら、早くしろ」
「言われなくても」
声の調子から、大典太は既に相当昂っていると分かる。案の定、下衣から出された大典太のモノは反り返り、天を仰いでいた。
「……ご陽気すぎるな」
「そりゃどうも」
そう言うと、大典太は鬼丸の上半身を跨ぎ、早く、と急かすように、怒張の先で胸の頂きを突ついてきた。この野郎、後で覚えてろと心の中で毒づきながら、女に比べてなけなしの質量しかない肉を脇から寄せ上げた。さっき胸にぶっかけられた液体のせいで手が滑る。それでも、どうにか形ばかりの谷間を作ると、そこに大典太のモノがにゅるりと入り込んできた。太さだけでなく長さもそれなりにある彼のイチモツは、少し動けば顎下間近に来て、にゅるにゅると胸の上を規則的に滑る。これがいつも自分の中に入って暴れて、意識飛ばすぐらいに狂わせるのだ。憎い……憎いけど、見ていたら口の中にじわりと唾液が滲み出てきた。こくん、と唾を飲むと、不意に大典太の動きがぴたりと止まった。
「……なんか違うな」
「……何がだ」
「やっぱりこっちのほうが」
大典太の手が服の裾を掴んで、一気に胸の上まで捲りあげた。そして、剥き出しになった白い胸にぴったりと挟まれる赤黒いもの。
「こうだな」
そこで小刻みに陰茎を動かされて、直に感じる固さと熱に目眩を起こしそうになった。
「〜〜ッ!」
眼下に見える卑猥な光景から、鬼丸は無言で顔を背ける。すると、片方の乳首をきゅっと摘まれた。
「んっ!」
「……俺だけ気持ちいいのもずるいからな」
「そ、んなこと……っ、ぁあ!」
すでに固くしこっていた乳首に大典太の指がぬるぬると這わされる。ぬめりのせいでいつもより敏感に感じてしまう。弾かれるような動きを繰り返されると、背筋がぞくぞくして、下半身に熱が集まり出した。陰茎が下着の中で張り詰めて、窮屈になってくる。
「は……っ、もう、出そうだ……」
「っ、はやくないか……?」
「かなり、興奮してる……」
「変態……」
「お互い様だ……、くっ」
息を詰めた大典太が、胸の上から陰茎を離す。その先が鬼丸の顔に向けられ、あ、と思った時には熱い白濁が肌にかかった。頬や唇を濡らす精液の匂いにあてられて、鬼丸の下半身に溜まっていた熱も弾けてしまう。
「んん……ッ」
下着の中がじわりと生暖かいもので濡れていく。
なんてことだ。顔にぶっかけられて、イってしまうなんて。あまりのことに呆然としている間に、大典太は身体の上から退き、下衣を緩め、脱がそうとしていた。それに気付いた鬼丸は慌ててそれを止める。
「……どうした」
「じ、自分で脱ぐ……」
「どっちにしろ脱ぐんだろう」
ぐっ、と下衣を掴む手に力が込められる。やめろ、と言う前に、下衣は下着ごと一気に脚から引き抜かれた。精液で濡れている下腹部が晒されて、気まずさと恥ずかしさのあまり、手で股間を隠そうとしたら、それも阻止された。いやらしくべとついているそこに大典太の顔が埋められる。
「……やめ、ぁ、ひあっ!」
陰茎に纏わり付く精液を舐めとるように舌を這わされ、膝ががくがくと震えた。過敏さの残る先端もちゅくちゅくと音を立てて吸われると、さっき達したばかりなのにまた上り詰めそうになる。腰は先を求めるみたいにいやらしく揺れて、与えられる快感に正常な思考が儘ならなくなっていく。
「あ、んんっ……、あ……おれ、も……」
「……ん?」
くりゅ、と割れ目に舌先を捩じ込まれて、目の前が真っ白になった。欲熱に浮かされて、口が自分の意識が届かないところで勝手に動く。
「したい……、おまえ、の……おちんぽ、しゃぶりたい……ッ」
――直後に大典太の霊力が暴発した為、この後の記憶は二振りとも曖昧になっている。
ただ、とんでもないことをした……というのは何となく頭の隅に残っていて、たまにふと思い出して鬼丸は赤面するのだった。
夏の秘めごと R18
「……おい」
茹だるような暑さの中、黙々と畑周りの草むしりをしていると、頭上から声が降ってきた。顔を上げると、赤茄子の入った籠を抱えた大典太がこちらを見下ろしていた。今日も大量収穫だったようだ。また夕餉は赤茄子ずくしか……と鬼丸は内心げんなりしていた。嫌いではないが、さすがに飽きてくる。額を伝う汗を手ぬぐいで拭いながら、「何だ」と素っ気なく返した。
「……見えてるぞ」
「あ……?」
何がだ、と続けると、大典太は黙ったまま、鬼丸の腰あたりを指差す。
「……尻が見えている」
そう言われて、腰を触ってみると、内番着の下衣がしゃがむことにより引っ張られて、腰から尻の上部分が剥き出しになっていた。上着も裾が長いわけではないので、余計に露出していたらしい。そんな状態になっていることを全く気づいていなかった自分が恥ずかくて
「……どこを見てるんだ、この助兵衛」
と吐き捨てるように言ってから立ち上がると、ずれた内番着をごそごそと直した。その様子を黙って見つめる大典太の目がギラついていることに、この時の鬼丸は気付いていなかった。
「……何をぼうっとしている。赤茄子を早く厨へ持っていけ」
鬼丸がそう言うと、大典太は持っていた籠を不意に足元へ置いた。そして、
「……来い」
と低い声とともに、鬼丸の手首を強く掴んだ。どこへ行くんだ、と戸惑う鬼丸をよそに、大典太は人気のない場所へと向かっていった。
「う、ん、ンッ……」
人目につかない木陰の下。陽の光は遮られ、吹き込む風はほんの少し涼しい。けれど、互いの身体を密着させた状態で口吸いをしている二人にとっては、持て余す熱を冷ますに至らない。
口づけを続けたまま、大典太の手が上着の裾から差し込まれて、ふっくらとした胸筋を揉んでくる。揉まれながら指の腹で乳首を押されて、鼻にかかった吐息が漏れてしまう。固くなった乳首をいじられている間に、下半身へ熱が溜まっていくのを感じて、堪らずに腰を揺らした。
「は、ぁ……っ、んん……」
「なぁ、していいか?」
「……最後まではナシだぞ」
「分かってる」
そう言う大典太の手は、相も変わらず胸を揉み続けている。触り方がしつこいので、無理矢理手を引き剥がしてやった。
(……本当に分かっているのか?)
と疑いながらも、内番着を下着ごと足元まで下ろすと、近くの木に手をついて、尻を大典太の方に向ける。
「は、早くしろ……」
こんな真っ昼間から、こんなところで、何でこんな格好をしなきゃならないんだ。するなら早く終わらせて欲しい。いつ誰に見られるかも分からないのだから。
「……何か滑りのよくなるものがあればいいんだがな」
「あるか、そんなもの……」
「まあ、そうだな」
むに、と尻肉を掴まれて、思わず身体が強張る。そして、双丘の狭間にあてがわれる熱いモノ。馬鹿みたいに固くなっている。コレで腹の奥をめちゃくちゃに突かれたら……と不埒なことを考えたが、すぐに頭の中から消し去った。外で最後までなんか冗談じゃない。おまけに真っ昼間の野外。誰か来るかも分からないというのに。尻ズリでさっさと射精させて、満足させたら、この行為はお終いだ。
そんなことを考えているうちに、ぱちんぱちんと尻肉を打つ音の間隔が小さくなってきて、もうそろそろか、と思っていたら、ぴたりと大典太の動きが止まる。そして、先走りで濡れた先っぽが、まだ閉じたままの尻穴に擦り付けられた。
「……っ、おい待て。最後までしないと言っただろう」
「……鬼丸、やっぱりあんたの中に入れたい」
「ふざけるな。しないものはしない」
「頼む、お願いだ……」
そう言う大典太の声は、今まで聞いたことないぐらいに切羽詰まり、その上、幼子がするようなお願いの仕方を目の当たりにして、心ならずも胸がきゅんきゅんとしてしまった。こんな事で絆されるなと自分の理性は訴えるが、身体はじわじわとよろしくない方向に疼き始めている。全くしたくないと言えば、嘘になる。しかし、今ここで最後まですると後始末やらなんやらが面倒だ。今の大典太の余裕のなさを見ていると、確実に腰が死ぬくらいヤられそうだ。内番がまだ終わっていないのだから、それは駄目だと言おうとしたら
「すき、好きなんだ、おにまる……」
と耳元で囁かれて、もう何もかもが駄目になった。卑怯者め……! と言い返す間もなく、口が勝手に動いていた。
「わかっ、た……から、はやくしろ……」
完璧に負けてしまったのだ。己の肉欲と、大典太のおねだりに。承諾を得た大典太はその場に跪くと、尻肉を掴んで開いて、きゅっと閉じられている桜色の後口に口付けた。穴の形が縦に割れてしまっているそこをこじ開けるように舌を挿入して、くちゅくちゅと解し始める。
「あ、ああっ、ん、ンッ!」
後ろを舌で掻き回されながら、前に回された手が竿をゆるゆると扱く。先走りを零す割れ目を指でぐりぐりされて、柔らかな袋をきゅうと吸われると、もっと、とねだるように尻が揺れてしまう。ちゅくちゅくと粘膜や肌を吸いしゃぶる音が、燻り始めた性感を恐ろしいほどに高めていく。
「あぁあ……ぁ、ん……、みつ、よ……」
自分でも嫌になるくらいの甘ったれた声で、男の名を呼んだ。肉体も心も、飢えた獣のように彼を欲している。熱いモノが腹の奥に欲しくて欲しくて仕方がない。堪らずに震える手を尻に伸ばして、ひくつく穴を拡げて見せた。
「んっ……もう……欲しい……」
「ああ……」
大典太の声は興奮で微かに上擦り、下を緩めている衣擦れの音も忙しなく、彼の余裕のなさが伺えた。口淫で十分に蕩けていたソコに、望んでいた熱があてがわれる。先が入口を開いたかと思うと、一気に奥まで入れられ、雁首で撫で上げられた内壁は瞬く間に甘い快感で満たされた。
「ああ……ッ!」
「くっ……」
軽い絶頂で収縮する内壁をものともせず、大典太は抽挿を続ける。がっちりと腰を掴んで、ぱんぱんと容赦なく中を穿った。大典太の激しい責め立てに、だらしなく開きっぱなしの口からは嬌声が迸り、端からは涎が伝い落ちる。ここが外だということも忘れて、獣のように交じり合う。ただ気持ちいい。それだけで頭の中はいっぱいだった。
前立腺裏と最奥を容赦なく突かれまくる。ガクガクと激しく身体を揺さぶられ、真珠色の髪を振り乱しながら、鬼丸は喘ぎ悶えた。
「あっ、ぁあ……だめっ、んっ……きもち、い……ッ、あ、あぁああっ!」
最奥まで突き入れられたモノで、女のように達してしまう。絶頂の余韻に浸っている間に奥へ中出しされると、それを取り込むように中はぎゅうときつく締まる。腰から下に全く力が入らず、少し柔らかくなった陰茎からはとろりと蜜が滴り落ちた。
「は……、ぁ、あ、ん……」
「……鬼丸」
湿った吐息とともに、耳元で甘く囁かれて、背筋がぞくぞくした。ぬる、と舌先が耳朶に這わされると同時に、腰へ回されていた大典太の手が角へと伸ばされる。
「や……っそこ、やめ……ッ」
達した後は何故か角の感度が上がる。当然、大典太はそれを知っているので、角の根本や先っぽをいやらしい手つきで愛撫してくる。触るな、と言いたいが、口はうまく動いてくれない。ただ、熱と甘さの残る吐息を零すばかりだった。角を触られているうちに、また腹の奥がずくずくと疼き始め、それを大典太に察せられないようにと、腕の中から逃れようとするも、がっちり抱き込んでいる彼の腕はビクともしなかった。
「んっ、ぁ……もう離せ……! 早く戻……」
そこまで言ったところで、中に入ったままのモノが再び大きくなっているのに気づいた。
「……何で復活してるんだ」
「……俺の意識ではどうにもならん。すまんな」
そう言うと、大典太は猛ったモノを中から引き抜いた。質量の喪失に一瞬気を抜いていたら、草地の地面へと押し倒された。雑草と土の匂いが鼻をつき、身動げば背中に当たる小石が痛い。いつもなら、柔らかな褥で抱かれるのに。こんな地面で、髪も服も汚れてしまうじゃないか。最悪だ。けれども、今は汚れることがどうでも良くなるぐらい、男の熱と自身の淫欲に頭を溶かされてしまっていた。のし掛かってきた大典太を押し退けることも出来ないまま、邪魔な下衣は脚から引き抜かれて、柔らかな後口に怒張がずぶりと捩じ込まれた。
「ひっ……、ぁ、ああっ!」
片脚を掬われて、さっきと同じか、それ以上の激しさで腰を打ち付けられる。口は意味のない母音を紡ぐばかりで、そこに思考というものは既になかった。鬼丸はされるがままに嬌声を上げ続け、突かれては揺れる爪先をぼんやりと眺めていた。
大典太の肩越しに見える木漏れ日がやけに眩しい。快楽の涙で滲み始めた瞳に映る木の影は、段々と光に溶けて薄くなっていく。
大典太が二度目の精を体内に吐き出す頃、鬼丸の視界は眩いばかりの白で覆い尽くされた。
鬼丸にとって全くの不本意ではあったが、初めての野外で火がついた二人は、あの後も『野外戦』をしっかりたっぷり楽しんでしまった。おかげで、鬼丸の腰は完全に死亡し、鬼丸にがっつり搾り取られた大典太はずしんと重い痛みを股間に抱えていた。おまけに、身体も髪も服も泥やら草やら体液やらで汚れまくっている。早く風呂に入って何もかもを洗い落としたい。
こんな筈じゃなかったのに、情と欲に流されたら、ロクなことにならない。流されてしまった自身に苛つきつつ、鬼丸は小さく舌打ちをした。
「……汚れたじゃないか」
「そうだな」
「……泥だらけじゃないか」
「……ああ、分かってる」
「……はやく、風呂」
そう言って、鬼丸は自分をおぶって歩いている大典太の項にがぶりと噛み付いた。ぎち、と牙をわざと食い込ませたら、「痛いぞ」と抗議されたが、しばらく噛み続けてやった。
(……鬼の甘噛みか)
痛いのは痛いが、多少のくすぐったさを感じる噛み方に、大典太は密かに微笑うのだった。
焼けたもちは鬼に喰われる R18
初めて鬼丸国綱と会った時の印象は、あまり良くなかった。初対面で挨拶もそこそこに「陰気だ」などと言ってきたものだから、思わず「あんたもな」と言い返したら、思い切り舌打ちをされた。無礼な奴に、礼儀正しく対応できるほど、性格がいいわけではない。三日月も数珠丸も、強烈な個性を持っているが、当たりは穏やかだから、鬼丸の尖った態度が余計に目についた。あまり関わらないようにと思っていても、天下五剣という括りの中、どうしても接触する機会が多くなる。顔を合わせると、大体向こうから突っかかってくるので、こっちも適当に相手をしていた。いい加減疲れて、一度ソハヤに愚痴ったら「それ、兄弟のこと好きなんじゃねぇの」と半笑いで言われたので、「馬鹿な」と一笑に付した。
その頃ぐらいからだ。鬼丸が酒を持って、自分のところへ来るようになったのは。「ほら」とぶっきらぼうに高い酒瓶を見せられた時、表面では冷静を保っていたが、心中は穏やかでなかった。何でこんな自分にこいつは関わってこようとするのだろう。同じ妖物斬りとして、何かを感じているのか――鬼丸の意図が分からなかった。
しかし、一緒に飲みはじめてしばらくしてから、単に自分と飲みたかっただけだと分かって、拍子抜けした。飲んでる間も、ちびちび飲めとか、もっと味わえとか細かいことを言われたが、不思議とその時は嫌な気分にはならなかった。飲んでいた酒が本当に美味かったのと、酒に酔った鬼丸の姿を観察していたからだ。酒が入った鬼丸はやや饒舌になる――とは言っても、説教くさくなるのではなく、会話の引き出しが増えるというのか。万屋に珍妙なものが売られていた、畑に植えた苗が枯れていた、厨でつまみ食いしたら燭台切に叱られたとか、そんな取り留めのない話をしていた。ご陽気な話もできるんじゃないか。酔ってこれなら、晩酌に付き合うのも悪くない。おまけにうまい酒も持ってきてくれる。それからは、誘われれば飲むようになり、次第にこちらから誘う機会も増えた。
鬼丸と「飲み仲間」という関係なってから、鬼丸の素の部分がよく見えるようになってきた。存外に彼は純粋で子どもっぽい。少し煽るようなことを言えば、ムキになるし、からかえば不貞腐れる。たまに真面目な話をしたら、真剣に聞いているし、正直見ていて飽きない。無防備な彼をもっと見たい。そんな想いを抱くようになってから、いつしか飲みの目的が「酒」ではなく、「鬼丸」になっていた。
鬼丸と一緒に居たいから酒を飲む。こんな気持ちになったのは初めてだった。仲のいい刀は他にもいる。でも、一緒に居て胸が高鳴ったりすることもないし、もっと側に居たいと思う程ではない。胸の奥を締め付けるような切なさは鬼丸といる時にだけ感じる。最初は何なのだろうと思っていた。けれど、色事に疎い自分でも、次第にこの気持ちが「何」なのかを察した。
鬼丸国綱に「恋」をしてしまったのだ。
最初は気に食わない奴だと思っていたのに、心というのはこうも変わるものなのか。人の心は移ろいやすいと昔から言われてたが、自分がそうなるとは予想もしていなかった。ただ、恋心を自覚しても、それを鬼丸に告げることは躊躇していた。今の居心地がいい関係を壊したくないのと、彼に嫌われてしまうのが怖かったからだ。この気持ちは自分が御役御免になるまで隠し通す。複雑な想いを秘めたまま、鬼丸との関係は現状維持を続けていた。これからも、何も変わらない。きっと。
――しかしどうして。心だけでなく物事も、思わぬところで移ろいでしまうのだろう。
ある夜のことだ。その日は春にしては蒸し暑く、昼間は夏を思わせるような陽気だった。夜になり多少涼しくはなったが、暑さは残っていた。
風通しを良くしようと窓の障子を僅かに開けたら、満月の月灯が差し込んできた。翳りのない姿がやけに美しく見えて、思わず見惚れていたら、鬼丸が部屋に入ってきた。手には相変わらずの高そうな酒瓶。勝手知ったるの振る舞いで自分の横に腰を下ろした。鬼丸はいつも着けている髪留めを着けておらず、無造作に髪の毛を下ろしていた。そのせいか分からないが、妙に色があった。幾分か幼く見える鬼丸の顔に、胸が不穏にざわついた。
何か、起こるんじゃないか。ふつりと沸いた言いようのない不安を押し流すみたいに、鬼丸の持ってきた酒を呷った。
甘くすっきりとしていて、口当たりのいい酒。これは危険なやつだと思ったが、美味いものだからどんどん酒は進む。気付いたら、自分にしては珍しく頭がくらくらするぐらいまで酔っ払っていた。少し呂律も怪しい。これはまずいなと、水を少し飲んでこようと立ち上がりかけたところで、脚からかくりと力が抜け、倒れてしまった。そして、倒れた拍子にあろうことか、傍らにいた鬼丸を巻き込んでいたのだ。気付くと鬼丸の上に覆い被さっていて、鬼丸は少し驚いた様子でこちらを見上げていた。潤んだ紅い目に射抜かれて、縫い止められたように動けなくなった。すぐに退かなければならないのに。「退け」と言われる前に早く。頭では分かっていても、身体が言うことをきかなかった。
しばらく硬直していたら、するりと鬼丸の腕が首に回されて、そのまま抱き寄せられた。互いの顔の距離が零になり、唇に柔らかな感触が触れた。それが鬼丸の唇だと気づいた時、理性は薄氷のように容易くひび割れ、昏く深い水底へばらばらになって沈んでいった。
人肌の温もりも、包み込む粘膜の熱さも、その夜に初めて知ったのだ。
それからは、酒を飲むついでに情を交わすようになった……というよりも、情を交わすために酒を飲むようになった、と言った方が正しいかもしれない。それと、鬼丸とこういう関係になってから、分かったことがある。彼は意外と性に奔放で、性欲も強いということだ。禁欲的で自他対して割りと厳しい普段の彼との差異にかなり驚かされた。
ある夜、上に乗っかられて、腰を振られた時は、どうしようかと思った。確かに気持ちは良かったが、こっちは不慣れな分、内心ビビり気味だったので、興奮はあまりしなかった。ただ、そういった戸惑いも、鬼丸との行為を重ねるうちに、薄れていった。慣れてしまえば、当たり前になって、段々と物足りなくなって――そうして、もっと貪欲になっていく。
その傾向は鬼丸の方が顕著だった。
いつものように二人で酒を飲み、会話もそこそこに、酔いに任せて行為へとなだれ込んだ。
部屋の中に転がる酒瓶、徳利、杯。無造作に脱ぎ捨てられた衣服。何かの文書類はバラけている。散らかっていても、気にする余裕なんて無い。いつもこうだ。正気に戻ったあと、お互いぶつぶつ言いながら片付けるのが常となっている。
素肌を合わせて抱き合い、口付けと愛撫で、ある程度興奮が高まった頃、鬼丸が脱ぎ捨ててあった寝間着の袂から、掌ぐらいの大きさの巾着袋を取り出した。
「……これを使って欲しい」
袋から出されたのは、細長い棒のようなもの。何やら弾力の有る素材で出来ているそれは僅かに撓り、片方の先に輪っかがついている。初めて見る道具に首を傾げた。何に使うのかさっぱり分からない。
「……使うって、どうやって」
「ここに……入れる」
そう言って鬼丸は、手に持った道具をまだ柔らかい陰茎の先に当てた。ちょうど割れ目のところ。濃い桃色に色づいた小さな穴。鬼丸が指し示しているのは尿道口だ。
「……入れるって……入るわけないだろう」
尿を排出する器官にものを入れようとすることにも驚くが、そもそも入るのか、こんなもの。ところが、鬼丸の口から、
「……入れたことがある。久しぶりだから、入れるのに時間がかかるかもしれないが」
と新たな過去を暴露された。本人の口から聞くところによると、鬼丸の前の主は相当な『スキモノ』で、鬼丸は『色々と』仕込まれたらしい。幾度か逢瀬を重ねてから、真相を聞いたときは何とも言えない気分になった。初めての時、随分と手慣れている感じがしたのにも納得がいった。鬼丸は肉体をどうすれば気持ち良くなれるかを熟知していて、こちら側として嬉しくもあるが、他人仕込みだと分かると素直に喜べなかったりする。初めてが欲しかった、なんて望むのは欲張りだろうか。というか、前の主は鬼丸の初めてを色々と奪いすぎだ。まさかそんなところまで……と思わずにいられない。
「……本当に入れていいのか?」
「……ああ」
手渡された道具をまじまじと見つめる。こんなものが、この小さな穴に入るのか。半信半疑のまま、大典太は鬼丸の陰茎を握った。
「ん……先を少し、開いてくれ」
「ここ、か……?」
自分はさっぱり分からないから、鬼丸の言うとおりにするしかない。先っぽの割れ目をほんの少し指で左右に開くと、小さな窪みが見える。そこから、ぷくりと先走りがにじみ出てきた。確かに穴はあるが……無理だろうこれは。自分のソコに道具を入れられるところを想像したら、されてもいないのに陰茎の中が痛くなってきた。おかげで、さっきから自身のモノはピクリとも反応しなくなった。
「これ……入るとは思えんのだが」
やはり信じ難くて、鬼丸に再度確認する。下手に入れて中を傷付けてしまうのも嫌だった。
「大丈夫だから、早く……」
そう答える鬼丸の声は明らかに興奮し、微かに上擦っていた。鬼丸をこんないやらしい身体にした前の主を怨むしかない。
(くそっ……)
開かせた窪みへ、棒の先端を押し当てた。ぐっ、と軽く押し込むと、意外にもすんなりとそれは奥へと入っていく。挿入している間、傷つけないよう細心の注意を払いすぎて、うっかり呼吸を忘れてしまっていた。途中で思い出して、一度大きく深呼吸をすると、ちらりと鬼丸の様子を伺った。
「……痛くないか?」
「痛くないが……少しきつい……」
「なら、やめるか……?」
実はやめてほしいというのが本音だったが、
「嫌だ」
と即答だった。けれども、鬼丸の眉間には深い皺も寄ってるし、額には脂汗も滲んでるし、どう見ても苦しそうなのに、そこまでしてやりたいものなのか。
元々、性や閨事に対して知識もあまり無く、性欲も淡白な大典太にとって、正直理解しがたいことだ。痛くて苦しい行為など、普通やりたくないではないか。
「……なんでそこまでしてやりたいんだ」
「気持ちいいからに決まってる。それ以外に理由があるのか?」
「……」
もう何も言えない。自分はとんでもない奴を好いてしまった。頭の中がぐるぐるして、じっと黙り込んでいると、鬼丸に早くと急かされる。もうどうにでもなれ、と中途半端に入ったままだった道具の挿入を再開した。それがだいぶ奥まで入ったところで、何かに当たり、そこから入らなくなる。これは無理に押し込んでいいのかと手を止めていたら、鬼丸の手が道具に添えられた。
「もう……いいぞ。ここから先はおれがやる……」
鬼丸は道具を摘むと慣れた手つきで奥へと飲み込ませていった。陰茎の先から見えるのは輪の部分だけで、管の殆どは尿道の中へと入ってしまっている。
「こんなに、入るもんなんだな……」
「は……ぁ、あ」
「……気持ちいいのかよ」
「う、ん……そこ、少し引っ張ってくれ」
「……こうか?」
輪っかに指を通し、軽く引っ張ってみる。
「ん、あ、ぁあっ!」
濡れた唇から迸る上擦った嬌声と、びくんと大きく跳ねる身体。恍惚の表情を浮かべている鬼丸の媚態を見るに、この快感を知っているから、鬼丸は管を入れるときの苦しさに耐えていたのだと分かった。
「あ……、ぁ、ひあっ!」
引っ張った道具をもう一度奥へと押し込んで、それから小刻みに出し入れをする。中がどうなってるのかは分からないが、反応がいいところでそれを軽く揺すってみた。
「あぁあッ! あっ、だめ、だ……そんな、したらっ」
「あんたがしたいって言ったんだろう」
「う、んんっ、あ、ぁ……!」
左右に開かれた白い太腿がびくびくと震えて、尻の狭間にある後口がきゅっと締まる。その淫らさに誘われて、縦割れしている尻穴へ指先を這わせた。
「あぁ……待っ、てくれ……そこ、は」
「……嫌か?」
「ン、んっ……いま、入れたら……ッ、あ、ひあっ」
つぷ、と指を二本挿入して、内壁を解すようにゆるく掻き回す。中のきつさが少し緩んだところで、指の腹に感じるしこりをぐりぐりと押し上げた。それと同時に道具もゆっくりと動かしてやれば、鬼丸はこれまでにないほど乱れ始めた。潤みきった緋色の瞳からは涙が溢れ、喘ぐ声はより甘く、蜜の様にとろとろと蕩けていく。
「あ、ぁっ! ん、や、あぁあッ!」
指を咥えこんでいる中がぎゅうと締まり、亀頭の割れ目が僅かにヒクつく。達してしまったらしいが、尿道を塞いでいる道具のせいで精液は殆ど漏れていない。普段の交わりなら、どんなに激しくても、鬼丸はどこか理性を保っていて、余裕すら感じさせる。夢中になって余裕なく抱いている自分が、情けないと思うぐらいに。しかし、今の鬼丸には、いつもの余裕はどこにも見えず、自制は確実に振り切れている。こんなに甘い声も、険が完全に失われて幼さの増した顔も、初めて知った。この淫らで愛らしい姿を、過去の男にも見せていたのか。それを想像すると、虚しさと苛立ちばかりが増してくる。相手の過去など気にしたところで無意味なのに、自分の中にある独占欲がじりじりと熱を持ち始めた。
「ん、んッ……あ、あぁ、もっと……」
鬼丸の指が陰嚢を掬い、柔らかな膨らみを大典太に見せつけるようにそこを挟んだ。つるりとした薄桃色のそこにしゃぶりつきたくなる。こんないやらしいおねだりされたら、もう要らないというまで与えてやりたい。でも、それは、「いつもなら」の話だ。今は違う。
「……駄目だ」
中から指を引き抜いて、その指で鬼丸の陰茎の先を軽く引っ張り、緩く立たせた。
「これ、抜くぞ」
「ぁ……いや、だ……抜く、な……」
涙声のお願いは聞かず、道具を尿道からゆっくりと抜いていく。そして、すべてが引き抜かれてしまうと、堰き止められていた精液がとぷとぷと溢れ出てきた。手に持った道具は適当にそこらへ放り投げ、吐精の余韻で甘く喘ぐ鬼丸の上に覆い被さった。力の抜けた白い脚を抱え、ヒクついている穴に怒張の先端を押し当てる。
「いやらしいあんたも悪くないが、過去の男があんたにしたことをさせられるのは、正直いい気分じゃない」
「……っ、あ」
「あんたはコッチだろう」
入口をこじ開けて一気に根元までずっぷりと挿入てやれば、鬼丸は声も出さずにまた高みへと上り詰めた。びゅるっと勢い良く吐き出された白濁が、鬼丸の胸や口元を汚す。
めいっぱい拡がって雄を咥えこんでいる後口の縁を、指でつつ、と撫でると、敏感になっているそこがぎゅっと締まった。
「んんっ、あ……」
「……今、あんたの相手をしているのは俺だ」
「……怒って……いるのか?」
「別に怒ってない。ただ気分が悪い」
ただの怒りならば、こんなにも苦しくはならない。
胸を掻きむしりたくなるようなもどかしさと焦燥感。これは嫉妬だ。鬼丸の過去に居た顔も名も知らぬ男。そいつに対して猛烈な嫉妬心を抱いている。自分にもこんな感情があるのだと驚きつつも、認めたくない思いもある。物事に対する執着が薄い方だと自覚していたから、余計にだ。嫉妬なんてみっともない。恥ずかしい。やきもち焼いてる格好悪い姿を、好いている相手に見られたくないではないか。けれども、今抱いているこの感情は、そんな些細な見栄すら粉々に砕いてしまう。非常に厄介だ。
「……なぁ、鬼丸」
言いながら、腰をゆるりと動かす。
「あ、ぁ……」
「前に言ってたよな。自分は面倒くさい男だと」
「う、ンッ、それ、が……なん、だ……」
「……俺もあんたに負けないぐらい面倒くさいぞ」
「なに、を……、くっ、あ、ぁあ!!」
渦巻く激情に突き動かされるまま、鬼丸の媚肉を蹂躙した。枷の外された欲望は制御できず加速していく。
鬼丸の過去に居座る男の影を、全て消し去ってしまいたくて、無我夢中で腰を振りたくった。湿った荒い呼吸と悲鳴に近い嬌声が混じり合う。情交の激しさを表すように下半身から聞こえてくる濡れた音は生々しく、絶え間が無い。こんなに容赦なく鬼丸を犯すのは初めてだった。これは嫉妬から来る八つ当たりだ。いけないことだと分かっているけど、止められない。
「っく、鬼丸……」
肉茎を深々と奥へ穿ち、喘ぎ声を零すばかりの鬼丸の口を吸った。最奥の性感帯を集中的に突きながら、熱くぬめる口内をたっぷりと貪る。
「んんっ、ン、ふ……っ、んう……ッ」
口付けている間に、くぐもった吐息が鼻にかかった甘いものに変わった。それと同時に鬼丸の中がきつく収縮し、限界まで張り詰めた大典太の雄を搾り取るように締め付けてくる。その刺激で込み上げてきた射精感に抗えず、鬼丸の深いところで熱液を放った。射精している間も腰をぐいぐいと押し付けて、奥の奥まで自分のものでいっぱいにしてやった。吐精の瞬間は、この上ない征服感と愉悦に満たされる。全てを出し切ったところで、ようやく唇を離すと、涙で濡れた白い頬に口づけた。涙の跡を舐めると塩っぱい味がした。
「……ん、よせ、擽ったい」
少し掠れた声で鬼丸が言う。
「……すまない。酷くしてしまった」
「……謝るぐらいならするな」
呆れたように言いながら、鬼丸が頭を軽く小突いた。
「そ、れはそうなんだが……。あんたをこんな風にした奴のことを考えたら、苛々してどうにもならなくなった」
「……言い方が何かひっかかるが。何だ、やきもちか」
「……ああ」
自分の気持ちを正直に認めると、さっき頭を小突いた手で、髪を柔らかく梳かされた。子どもをあやす様な優しい触り方をされて、気恥ずかしさに頬がむずむずしてくる。
「念の為言っておくが、前の主は閨での嗜好が特殊だっただけで、人格、武勇ともに優れた人物だった。正直に言うとおれも嫌だったわけではない」
「……その特殊な嗜好が優れた人格と武勇を台無しにしてる気がするんだが」
「そう言うな。そんな主をおれは愛していた。もっとも、蜜月は短かったがな……。妬けるか?」
「……妬けるな」
「……なら、お前好みにおれを躾ければいい。おれがもうあの人を思い出さなくなるくらいに」
「……まだ、思い出すことがあるのか」
「たまにな。だが、もうだいぶ朧気になっている。随分と昔のことだからな」
「……くそ。絶対に忘れさせてやる」
さっきから毛先を弄んでいる鬼丸の指に自分のそれを絡み合わせて、敷布へと手を縫い留めた。噛み付くように口付け、呼吸を奪う。すると、鬼丸の脚が腰にするりと回されて、先を促すようにぐっと力を込めてきた。そのおかげで、鬼丸の中に入ったままのモノは一気に復活してしまった。吐き出した精液で濡れた中をぐちゅりと肉茎で掻き回すと、とん、と踵で腰を叩かれる。
「……何だ」
「生温いことをするな。もっと激しく動け……」
――忘れさせるんだろう?
凶悪すぎる挑発的な笑みとともに、そう言われて、目元がカッと熱くなる。元々ついていた心の火に、瓦斯厘をぶちまけられたのだ。
身も心も灼け付くような情交は、二振りがほぼ同時にくたばるまで続けられた。
その夜の交わりが、一番激しくて、頭がどうにかなりそうなほど気持ちよかったと、鬼丸がほろりと白状して、大典太の心に重傷を負わせる日は、そう遠くないうちに訪れる。
飲んだくれの朝 R18
ほんのりと暖かくなった春の朝日が差し込む寝室の褥の中で、寝起きの鬼丸は困惑していた。
(……何だこれは)
外の天気とは正反対に、鬼丸の心中は穏やかではなかった。
何で自分は裸なのか。部屋の中をぐるりと見回すと畳の上に無造作に置かれた自分の夜着があった。当然、脱いだ覚えなんかない。
(……酔っていたからか)
昨夜のことをふと思い出す。いい酒が手に入ったからと、大典太とのところへ行ったはいいが、ちびちび飲めと言ったにも関わらず、奴は酒を半分ほど一気に呷り、それにキレて自分もその残った半分を全て飲み干したのだった。そこからの記憶はまったくない。恐らく酒がすぐに全身へ回って、酔い潰れてしまったのだろう。
不覚だった……。とんでもない醜態を晒してしまったな、と二日酔いでズキズキ痛むこめかみを押さえた。
(最悪だな……)
これは一日中響くなと頭を抱えていたら、もそりと掛け布が動いた。自身の寝起き姿が衝撃的すぎて今まで気づかなかったが、傍らに誰かがいる。
「ん……朝、か?」
やや掠れているが、確実に聞き覚えのある声に、嫌な緊張が走った。
「ああ……あんた、起きてたのか」
そう言って、小さくあくびをした大典太が身体を起こす。彼もまた全裸だったので、死にたくなった。この状況で昨夜何をしたかなんて、十中八九予想がつくが、とりあえず訊いてみる。そうでないという僅かな望みをかけて。
「おい……」
「ん?」
「何でおれたちは裸なんだ……」
「……覚えてないのか」
「まったく覚えてない」
「朝餉代わりに教えてやるよ。酔っ払ったあんたが俺の上に乗ってきて、服脱いで、尻の穴に俺の」
「もういい。喋るな。聞きたくもない」
ああやっぱり、と嫌な予感が確信へと変わった。恐らく大典太の言っていることは事実だろう。やらかしてしまったことに対する自己嫌悪が半端ない。
頭は割れるように痛いし、気持ちも悪い。おまけに胸も痛い。心が奈落の底へ落ちていく気分だ。
(……胸?)
そこで、胸の違和感にふと気づいた。胸元を見下ろすと、乳首が少し赤くなっていて、ふっくらと腫れている。
「……何か、ここがヒリヒリするんだが」
恐る恐る乳首に触れてみると、びりっと鋭い痛みが走った。
「そりゃ……俺が吸ったり噛んだりしたからだろ」
「あけすけに言うな、馬鹿」
「事実を言っただけだ」
「認めたくない事実だな……」
そうは思うものの、この乳首の痛みが、大典太に弄られまくったということを間違いなく示している。
意識を飛ばしている間に身体を好き放題弄られたのかと考えたら腹立たしくもあるが、酒に呑まれた自分も大層な間抜けなので、さして相手を責め立てる気にもなれない。
「……馬鹿はおれか」
「……お互い様だ」
はあ、と重苦しいため息が二つ重なった。
まだお互い困惑しているが、この状況は間違いなく現実なのだ。考え込んでも、どうしようもない。しばらくぼうっとして、少し落ち着いてきたところで、急に喉の乾きを覚えた。
深酒のあとは必ず水が恋しくなる。このままここに居ても気まずいので、水を口実に出ていくことにした。
「水……飲んでくる」
酒の残る重い身体に鞭打って、立ち上がろうとした時だった。
「……っ!」
とろ……と何かが尻の谷間を伝う感触がして、上げかけた腰を再び敷き布へと慌てて落とした。
「……どうした?」
そんなこと訊くなと言いたいが、下手に隠してもどうせ分かってしまう。
「……粗相を……したかもしれん」
尻から何か出てきたとか流石に言いづらい。今の思考力で考えられる精一杯の最適解はこれだった。
「粗相……?」
大典太はしばらく考えた後、合点がいったように、「ああ、そういうことか」と言うと、いきなりこちらにのし掛かってきた。
「おい、何を……、っ!」
片方の足首を掴んだ大典太が、力の抜けた脚を大きく広げた。彼の眼前に晒されたそこが、無意識にきゅっと締まった。一番見られたくない秘部をまじまじと見つめられ、あまりの羞恥に身体中がかあっと熱くなる。
「昨夜、中に出したのが漏れてきたんだろ。掻き出してやるよ」
中に出した、という台詞に精神が灼き切れるかと思った。当然、恥ずかしさで、だ。
「そ、そんなこと、しなくていいっ!」
「じゃあ、あんたが自分でやるか? このままにしてたら腹壊すぞ」
有無を言わさず、大典太の指が後ろに突っ込まれ、指一本だけではない圧迫感に悲鳴が上がる。
「うあっ……、あ……やめっ」
「お、出てきた」
くぱ、と入口を拡張され、内側の粘膜が空気に触れるのが分かる。そして、体内から熱いものが流れていくのも。
「……ぁ、く……」
「奥に残ってるな」
根元まで捩じ込まれた指が、肉壁を掻き回すようにぐちゃぐちゃと縦横無尽に動く。本当に掻き出す気があるのかという乱雑で荒っぽい動きに、文句の一つも言いたくなったが、指の腹がある箇所に触れた途端、背筋に突き抜けるような快感が走って、何も言えなくなった。そのまま指は感じるところを刺激し続け、やめてくれ、と訴えようとしても、口を開けばひどく甘ったるい声しか出せない。
「うぁっ、や……っ、ぁ、あ」
「……いやらしい声だすなよ」
「好きで出してるわけじゃ……ぁ、ンっ、そこ、やっ……ぁ、あ、んん……ッ♡」
指を咥えているところから拡がっていく蕩けるような感覚に、頭が真っ白になる。射精を伴わない絶頂は強烈過ぎて、自然と目尻から涙が溢れてきた。内腿はびくびくと震えて、爪先はぎゅっと丸まる。
「……ん、んっ、あぁ……」
「あ、悪い……」
本気でバツが悪そうに謝ってくる大典太に居た堪れない気分になる。向こうはそんなつもりじゃなかったのに、こっちが勝手に感じてしまったのが馬鹿みたいではないか。
「謝るな……」
「いや、でも……すまん」
中に入ったままだった指がずるりと引き抜かれる。その刺激にも感じてしまって、少し萎れた陰茎の先から蜜がとろりと溢れ出た。まだ残る絶頂感を深呼吸しながら、どうにか落ち着かせていると、大典太が
「……ちょっと、厠行ってくる」
と言って、立ち上がろうとしたので、その腕を掴んで阻止する。彼の股間に目をやれば、そこは見事に反り返り天を仰いでいた。
「……元気なことだな」
少し皮肉を込めた口調で言いながら、大典太の竿を力まかせにぎゅっと掴む。
「うぐっ」
「昨夜好き勝手したくせに……今更だろう」
根本から先っぽに向かってゆっくり撫で上げると、どくんと脈打って更に容積を増した。 血管が浮いて見えるまで膨張したソレに、こくりと小さく喉を鳴らす。
「……いいのか?」
「好きにしろ。ただし、中で出すな」
「……努力する」
言うが早いか、すっかり蕩けた秘部に怒張が充てがわれ、そのままずぶりと体内へ捩じ込まれる。その早急さに大典太も余裕がないのだと感じて、思わず苦笑いした。しかし、そんな余裕も束の間で、太いモノで奥を激しく突かれたら、何も考えられなくなった。
快楽の波にのまれ、溺れて、沈んでいく。
「……中に出すなと言った」
「努力はした」
悪びれた様子のない大典太の腹に、拳を思い切り打ち込んでやった。
酒にまつわる話 R18
酒は百薬の長ともいうが、それは量と飲み方を上手く自分で制御できたらの話であって、自制もせず飲みたいだけ飲んでしまえば、大抵の場合は失態を犯す。例えば、言ってはいけないことを言ったり、人前で裸になったり、お金をばら撒いたりと、酒にまつわる失敗というのは枚挙に暇がない。酒が入るとどうにも気が大きくなってしまうのだろう。酒の力で普段抑えているものが解放されるのは、酒を嗜む人間にはよくあることで、そしてそれは人間の肉体を得た刀も例外ではなかった。
「たまにはおれも『上』をやりたい」
空になった酒瓶や徳利がいくつか散乱している部屋の中、完全に酔いが回った舌足らずな口調で鬼丸が言った。
彼のお願いであれば、なるべく叶えてやりたいとは思うが、それだけは聞き入れられない。
「駄目だ」
「……何でだ」
「あんたは俺に抱かれてたらいい」
そう言って徳利に入った酒を喉に流し込んだ。カッと喉が熱くなって、そこから一気に全身の血が沸き立っていく。これが堪らない。飲み干した徳利を畳に置くと鬼丸は眉間に深い皺を寄せ、納得してないというか、諦めてなさそうだった。
「おれだっておとこだ」
「ああ。そうだな」
「おんなやくばかりはいやだ」
「そうか」
「まじめにきけ」
「聞いてる聞いてる」
鬼丸の呂律がどんどん怪しくなっていっている。このまま放っておいても、勝手に酔いつぶれるだろうと適当にあしらっていたら、鬼丸が不意に肩を掴んできた。そのまま押し倒されそうになったので、慌てて畳に手をついて倒されまいと踏ん張る。
「おれにだかれるのがいやなのか?」
「……そう、だな」
「なんで」
「何でって……」
正直、抱かれてやらんこともないとは思うが、やはり自分の下で乱れる鬼丸を見たいし、愛したい。それと、自分が臆病虫で尻穴へ異物を入れられるのが純粋に怖いというのもある。鬼丸は巨根だ。自分も小さい方ではないという自覚はあるが、鬼丸の大きさもそれなりなので、そんなブツを入れられた日には尻穴が見るも無惨なことになる。尻に入れるのが怖いとか言ったら、「いつもおれにしているくせに」とキレられるのは間違いない。なので黙っておくことにする。
「俺は抱かれるより抱くほうがいい」
「……こんやはおとなしくおれにだかれろ」
女が聞けば喜びそうな台詞も、今の自分にとっては悪い意味で背筋がゾクゾクする台詞だ。
「断る」
「ことわるな」
「無茶言うな」
「いつもおればっかり」
「でも嫌じゃないんだろ?」
「……いや……ではない」
「なら別にいいだろ。今のままで」
「……いやだ」
ぐぐっと鬼丸の手に力が篭もる。思った以上に諦めが悪い。このまま根比べしても無駄な力を使うだけだ。
「……そんなに言うなら、勝負して負けたほうが下ってのはどうだ?」
「しょうぶ……?」
「……お互いのちんこ扱いて、先にイッたほうが負け」
我ながら何て最悪な勝負方法だと思う。パッと出てきたのがこれだったのだから、頭を酒で相当ヤラれている。半分溶けかかっているんじゃないか。
「……わかった。やる」
そして、こんなクソみたいな勝負を受けて立つ鬼丸も、自分と同じぐらいかそれ以上に頭の中が溶けていると思われる。すべては酒のせいだ。酒で何もかもが緩くなってしまっている。
「ほら、あんたも出せよ」
言い出しっぺなのだから、先に自分のナニを、緩めた夜着の中から出してやる。酔いが深いせいかあまり反応はよろしくない気がする。しかし、感覚が鈍くなってるほうがありがたい。この勝負、絶対に負けるわけにはいかないのだから。
扱いて勃起させていると、その様子を鬼丸はとろんとした目で見つめていた。めちゃくちゃ抱いてほしそうな顔をしているくせに、抱かれろとかよく言う。
「やっぱり、あんたは下がいいんじゃないのか」
「……ちがう」
「勝負はやめて、大人しく抱かれるか?」
そう言うと、ぐっと唇を噛み締めた鬼丸は無言で頭を振った。そして、躊躇いがちに夜着の裾を割り、陰茎を取り出す。自分のよりやや薄い色のソレは既に張り詰めていて、割れ目を先走りで濡らしていた。今の状態でこれなら、三擦り半ぐらいで射精するなと密かに勝利を確信した。今にも弾けそうな鬼丸のモノを柔らかく掴んで「俺のも触れよ」と促すと、鬼丸はおずおずと手を伸ばして、屹立したソコを握ってきた。陰茎の血色と白い指の対比がいやらしい。よく思い返したら、こうして触ってもらうのは初めてかもしれない。口淫や手扱きもさせたことがなかったせいか、鬼丸の動きはどこか拙い。それが妙に興奮してしまう。
(……いかん。落ち着け。先に出したら負けなんだからな)
こちらからけしかけた勝負なのだから、負けは許されない。余計なことは考えず、鬼丸を先にイかせることに集中しろ。己に言い聞かせて、鬼丸の陰茎を擦る手の動きを徐々に早めていく。先を集中的に責めると、くちゅくちゅと濡れた音が聞こえてきた。
「……んっ、く……ッ」
「ちゃんと手動かせよ」
「わ、かってる……!」
手を動かす余裕なんて本当は無いだろうに、意地を張るのは酔っ払っていても変わらないようだ。そこがいじらしかったりもするけど、今は意地を張っても無意味なことを教えてやる。
鬼丸の喘ぎが切羽詰まった甘い声に変わり、もうそろそろだな、とイかせようとした時だった。
急に顎を掴まれ、噛みつくような口づけをされる。ぬる、と熱い舌が口内へ侵入してきて、怯んだ舌を絡めとっていく。鬼丸の思わぬ行動に驚いたせいで、手の動きをぴたりと止めてしまった。その間にも、鬼丸の舌は粘膜をなぞり、わざと音を立てながら舌を吸ってくる。鬼丸は何故か口吸いが上手い。これはまずい、と思ったが最後、望まぬ放出の快感が訪れてしまった。
「〜〜ッ……!」
陰茎がびくびくと震えて、迸る白濁が鬼丸の手を濡らしていく。
(嘘だろ……)
不意打ちの口付けに負けてイッてしまった……。勝つつもりだったのに、何てことだ。敗北の屈辱感に苛まれているところへ、射精後の虚脱感が追加されて、激しい自己嫌悪に襲われる。
「……あんた、卑怯だぞ」
地を這うような低い声で言うと、ふん、と鼻で嘲笑われた。
「勝負に卑怯もクソもない。勝てばいいんだ」
勝者の余韻に浸っている鬼丸の口調はさっきとは打って変わってやけに明瞭なものになっている。そして、これみよがしに手のひらについた精液を舐めとる鬼丸の姿に、自分の中の何かが音を立ててブチ切れた。
完全に油断しきっている鬼丸を畳へと乱暴に押し倒し、夜着の胸元を割り開いた。
「なにを……、んっ!」
露わになった白い胸に顔を埋めると、その頂にある突起を口に含み、ちゅうっと強く吸った。もう片方も指でくりくりと捏ね回し、しつこいくらいに乳首を弄ぶ。乳首はすぐに固くしこり、素直な反応を示す鬼丸の身体に満足しつつ、愛撫の手を強めていった。鬼丸は愛撫から逃れたいのか、肩を押し返して引き剥がそうとしてくるが、結局、その手は夜着の布を掴むにとどまり、その内、諦めたように背中へと縋りついた。
「んんッ、あ……、ぁ……」
胸への刺激を耐えるみたいに、鬼丸の爪先が畳を何度も引っ掻いている……というよりも暴れている。愛撫の合間に下半身を盗み見たら、脚癖が悪いせいで裾は乱れまくり、肉付きのしっかりした太腿が晒されていた。早く全て暴いてしまいたいという衝動を覚えながら、口の中にある乳首を甘噛みし、もう片方を指で摘み強く捻り上げる。
「あぁ、んっ、や……っ、ら……ぁ、ああぁッ!」
舌足らずな甘え声を上げて、鬼丸は触れられていない陰茎から白濁をとぷりと溢れさせた。瞼を伏せたまま、吐精の余韻に浸っている鬼丸を見て、溜飲はある程度下がったが、完全にというわけではない。達したあとも乳首をずっと触り続けて、引っ張ったり抓ったりを繰り返す。
「……やめっ、も……さわ、るなっ」
「ココだけでイくような奴が、『上』なんか無理だろ」
「痛……ん、ンッ!」
「……あと卑怯な手を使ったから、お仕置きだ」
寝させるつもりはないから、覚悟しとけよ。
半ば脅しのようなことを言って、その夜は本気で鬼丸を泣かせた。素面であれば口に出すのが憚られることを言ったり言わせたり、かなり無茶なこともしてしまったので、酒の力は恐ろしいと改めて認識した。しかし、酒をやめようとは思っていないし、その時はやり過ぎたと多少反省したが、後悔はしていない。
そんなこともあり、鬼丸が「上になりたい」と言ってくることは、その夜以来、二度と無かった。
追儺の夜 R18
重い。苦しい。この感覚は覚えがある。
ああ、あの暗くて黴臭い蔵の中にいた時の感覚と同じだ。
せっかく、日の元に晒されたというのに、結局蔵へ逆戻りか……。所詮自分など日陰者なのだ。
日陰者にはやはり蔵の中が相応しいだろう。そう思自覚すると、腹にかかる重さが増して、息苦しささえ感じるようになった。金縛りに遭っているようだ。
目を開ければ、きっと見覚えのある古びた天井。そして暗闇。もう眩い光が目に差し込んでくることはない。
諦めの気持ちで重い瞼をゆっくり開く。視界に入ってきたのは屋敷の寝室の天井だった。蔵の中ではないと安心したところで、身体の上にぼんやりとした白い影が現れた。
「……?」
暗闇の中、目を凝らしてみると、その影は次第に人の形に変わっていく。障子の隙間から差し込む月明かりにうっすら浮かび上がる銀色の髪に見覚えがある。そして、その銀髪から覗く異形に、自分にのしかかっている者の正体を確信した。
目を見開いて硬直していると、むぎゅ、と鼻を摘まれたが、すぐさまそれを手で振り払ってやった。
「ふん、ようやく起きたか」
「なにしてんだ……」
「せっかく、酒を持ってきてやったのに、さっさと寝やがって。もっとおれに構え」
「は……? 飲む約束なんかしてないだろう」
「今度安酒を持って行くと言った」
「……いや、その今度がいつなのか、分からないだろうが」
「今だ」
「……何だそれは。言ってることが無茶苦茶だぞ」
そこまで言ってようやく気付いた。すごく酒臭い。
「……あんた、酔ってるのか」
「酔ってない。あんな安酒で酔うものか」
鬼丸が喋るたびに、濃い酒の匂いが鼻腔を刺激する。匂いだけでこっちまで酔いが回りそうだ。鬼丸が飲んだのは安酒。その匂いはくどい上にえぐくて、決していい気分になるものではない。しかし、どこか蜜のような甘ったるさもある匂いに、目の前が一瞬揺れて、思わず顔を顰めた。
「酔ってるだろう」
「酔ってない……」
こちらを見下ろす目からは、敵と対峙している時の鋭さは失せていて、その赤は危うい無防備さに満ちていた。
何か変な雰囲気だ……これは酒のせいなのか、それとも。
「いい加減、退いてくれ。重い」
「いやだ」
「何を子どもみたいなことを」
「……子どもがこんなことをするのか」
そう言って、鬼丸は夜着の帯を緩め、濃紺の着物を肩から落とした。ぱさり、と衣が重なる音ともに晒されたのは、白くしなやかな裸体だった。月の青白い光を浴びて浮かび上がる無駄のない造形を、不覚にも美しいと思ってしまった。が、何もつけてない鬼丸の下半身が目に入ると、頭の中は混沌とし始めた。
髪と同じ色をした下生え、そこから頭を擡げているモノ……何故、勃起しているんだ。
「おい、何を考えてる」
「おれに言わせるのか」
「そういう問題じゃない。やめろ。悪いが俺にその気は無い」
「……なら、その気にさせてやる」
少し拗ねたような口調で鬼丸は言って、ゆっくりと身体をずらしていく。そうして、彼は大典太の股座に躊躇いなく顔を埋めたのだ。
「……!」
驚きすぎて最早声も出ない。唖然として身動きも取れず、ただ鬼丸の行為を見つめていたら、下穿きをずらされ、アレを剥き出しにされた。ひんやりとした空気を感じた直後に、そこはぬるりとした生暖かいものに包まれた。男根は鬼丸の口の中に……先っぽから根本までずっぷりと。喉からひゅうっと情けない音が鳴った。
「〜ッ、や、やめろ、この馬鹿!」
「……その気にさせると言った」
「本気でする奴が……うっ」
括れ部分を甘噛みされて、思わず息を詰めた。こっちの動揺など完全無視で、鬼丸は陰茎を口で愛撫し続ける。拙いけれど、気持ちいいところを的確に責めてくる口淫に身体は嫌でも反応してしまう。
「勃ったな……」
恍惚混じりの声でそう言われて、目眩がしたと同時に、血がソコから少し引いた。まだ固さは保っているが、いっそこのまま萎れてほしい。
「そんなにされたら、嫌でも勃つ。もういいだろ」
「……まだ、だ」
股間から顔を上げた鬼丸が、ゆらりと上体を起こし、やや覚束ない仕草で大典太の腰を跨いだ。
「……お前だけ、気持ちよくなるのはずるい」
「ずるいって、あんたが勝手に……って、待て! 今度は何をするつもりだ」
「黙れ。じっとしていろ」
ほんの少しだけ柔らかくなった陰茎の根本を指で支えると、立たせたソレに尻を擦り付けてきた。穴があるであろう場所に、先端が触れると、鬼丸は鼻にかかった甘い声を漏らした。
それにつられて、萎れかかっていたモノがまた息を吹き返してしまった。本人の意志とは無関係なのに反応したことが情けない。情けなさすぎて瞼が熱くなってくる。何てことだ。ああもう早く飽きて欲しい。
「……意外と大きいな」
「意外は余計だ……、っく、やめ、ろ……正気か、入るわけ、ない……」
「お前が変な動きさえしなければ、怪我せずに入る」
「あんたなぁ……、うあっ!」
不意に体重をかけられ、情けない声が出た。先の部分がずぶりと鬼丸の体内へと飲み込まれていく。狭くてきつい入口の圧迫に痛みすら感じてしまう。
突っ込んでるのは自分なのに、何だこの手篭めにされてる感じは。おかしくないか。いや、実際に手篭めにされているのだが、立場がおかしい。何でこっちが下なんだ、と。
「んんっ」
歯を食いしばり、苦しそうに呻く鬼丸の様子を見て、そんな辛い思いをしてまでしたいのかと呆れてしまう。
抵抗するだけで無駄だ。文句を言ったって、この質の悪い酔っぱらいは聞く耳など持たない。
もう好きにしてくれ、とどこか冷めた目で見つめていたら、そんな自分とは正反対の熱を宿した鬼丸と目があった。心なしか目の下がほんのりと色づいている。
「見ろ、ぜんぶ、入ったぞ……」
「信じられん……」
思わず手のひらで瞼を覆った。
本当に全てを身体の中におさめやがった……。
開いた指の隙間から、繋がっている箇所を盗み見ると、ソコは隙間なくきっちりと埋まっていた。陰茎全体を熱い粘膜に包まれ、そして、締めつけられて、初めての感触に腰の辺りがうずうずする。快なのか不快なのかいまいちよく分からないが、とりあえずきつい。入口に当たる根元が痛い。
「……血が止まる」
「痛いのは最初のうちだけだ、俺もお前も……」
「痛いなら今すぐやめろ」
「ここまで来て、いまさら引き返せるか」
と鬼丸は吐き捨てるようにいって、唇をぎり、と噛み締めた。挿入の刺激で慄く両膝を立てて、ゆさりと腰を揺らした。最初のうちは緩慢で覚束なかった動きも、次第に規則的なものへと変化していく。
「はっ、ぁ……あ、あっ」
喘ぐ声は苦しいだけではなさそうだった。鬼丸の
下腹部で揺れる可愛らしくない大きさのモノは張り詰め、割れ目からは先走りが滲んでいた。鬼丸が腰を上げては落とす度に、結合部で見え隠れする自身から目を逸らせず、彼とまぐわっているという現実を嫌でも突き付けられる。
好き勝手しやがって、と思いながら、鬼丸の肩を掴み、結合を解かないまま、褥へと無理矢理押し倒した。
「あ……?」
「やられっぱなしっていうのも、癪だからな」
片脚をすくい上げて、肩に抱えると、半端に抜けかけたモノを再び奥へと捩じ込んだ。陰毛が尻肉に触れるぐらい密着させて、奥を小刻みに突いてやったら、鬼丸の反応が明らかに変化した。
「う、あ……あ、ッ!」
普段の彼からは想像もできないほどの甲高い声だった。上擦り掠れた聞きなれないそれに、耳から首筋のあたりがゾクリとした。少なくとも嫌悪ではない。戸惑いと高揚といえばいいのか。こんなはしたない姿を晒している鬼丸に対して、自覚はしたくないが、間違いなく興奮している。中を穿つたびに柔らかな肉襞はいやらしく絡み付き、その動きに誘われて、自然と律動が激しくなっていく。
動きを止めないまま、ふと、鬼丸の下腹部を見れば、僅かな白濁で濡れていた。一度、達してしまったようだ。
(……よくわからんが、ここがいいのか?)
どこがいいのか分からない手探り状態で、鬼丸の反応がいいところを、集中的に責めた。浅いところも深いところも、余すことなくじっくりと、捏ね回したり突いたり、掻き回したり。ぐぽ、ぐちゅっという湿った音が、肌のぶつかる音と混ざり合う。
「んっ、ァ、あ、あっ、あぁ!」
「っく、何て……声出してんだ……」
「ああ……ッ、あ、ぁ……」
「……聞こえてないか」
「あ、ぁっ、んんっ……」
肉欲の涙に潤む赤い瞳は大典太を見ることなく、空を彷徨い見つめる。濡れた唇はゆるく開きっぱなしで、意味のない母音を紡ぐばかりだ。もう完全に理性は飛んでしまっているのだろう。薄紅色に染まった頬へ、そっと触れてみる。すると、鬼丸はゆるりとこちらへ目を向けて、何かを伝えるように微かに口を動かした。
何だ? と思い耳を傾けると、熱っぽい吐息の合間に囁かれた「言葉」に、心臓が灼け付くような熱さを感じた。戦の時の昂ぶりと似ているが、それとはまた少し違う。鼓動が大きくなるにつれて、腹の奥に何とも言えない疼きが生まれ、蟠り、こちらの自制心を削ぎ落としていく。
「……あんた、は」
鬼の中には美しい人間の姿に化け、人を誑かし、狂わせて、血肉を喰らってしまう者も居ると聞いたことがある。自分と交わっている彼の姿を見ていたら、その話をふと思い出した。
(鬼斬りのくせに、あんた自身が『鬼』かよ……)
クッ、と口端を吊り上げると、一際強く腰を打ち付けた。鬼丸の口から嬌声が迸り、雄を咥えている内壁がぎゅうときつく締まる。
そっちが喰うつもりなら、存分に喰われてやってもいい。しかし、喰われるだけで、終わらせるつもりもない。
――追儺の夜はまだ始まったばかりだ。
翌朝、乱が
「鬼丸さんが、青白いどころかドス黒い顔色してて、自室に篭ったきり出てこないんだ。どうしたんだろう」
と心配そうに言っていたので
「二日酔いに効くと言って、その辺の野草食ってた」
と適当に答えてやったら、後日復活した鬼丸に真剣必殺食らわされた。