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何かが連続して破裂するような音が、突如鳴り響いた。厨の窓が微かにびびり、鬼丸は胡瓜を切っていた手を思わず止めた。すると、再びパンパンという破裂音が外の空気を揺らした。火薬が爆ぜる音と言ったら良いのか。鉄砲に近い気もするが、音の重さが違う。
「……何の音だ」
「ああ……鳥避けの爆竹を燭台切が鳴らしてるんだろう。農作物を荒らすからな」
米を研ぐ手を止めないまま、傍らに居る大典太が答える。
「鳥避け……?」
「獣はああいう大きな音が苦手なんだそうだ」
「ほう……」
そうなのか、と納得しつつも、鬼丸は「鳥避け」という言葉が妙に引っかかっていた。鳥避け、鳥避け……と頭の中で反芻した後、
『雀が俺を見て逃げていった』
と内番中に彼がぽつりと漏らしていた嘆きを思い出した。大典太光世に纏わる逸話も踏まえれば、鳥避けならこいつが適任だろうと考えていたら、ふと脳内にとある情景が浮かんだ。そこで鬼丸は思わず吹き出してしまった。急に肩を震わせて忍び笑いを始めた鬼丸に、大典太は眉を顰める。
「おい、何だ。急に」
「……いや、鳥避けなら、お前の姿を模した案山子の方が効くんじゃないかと思ってな」
「は?」
「鳥止まらずの蔵、だったか?」
「……確かにそうだが……俺の案山子とか……」
「獣どころか野菜泥棒も近付かなくなって、一石二鳥だろう」
「……あんたな」
「一度作って試してみるか」
「勘弁してくれ」
「冗談だ」
「あんたが言うと、冗談に聞こえない」
「そうか」
ふ、と鬼丸は小さく笑うと、切りかけていた胡瓜に再び包丁を入れた。
とんとんと小気味よく響く音に、再び外で鳴らされた爆竹の音が交じる。
鳥は完全に追い払われただろうか。そんなことを思いながら、大典太は鬼丸の方をちらりと盗み見た。
窓から差し込む西陽の茜色が、鬼丸の横顔を普段よりも柔らかく映していた。
その美しさについ見惚れた大典太が、米を研ぎ汁ごと流しにぶちまけるまで、あと五秒。