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ふわふわと水面に揺れる豊潤な白い泡。ばしゃばしゃと湯船を大きく掻き回すと、まだ泡はふわりと増えて、浴槽からこぼれ落ちていく。鼻腔を擽るチョコレートの甘い匂い。乱から貰った泡の入浴剤だが、中々に悪くない。些か泡立ち過ぎな気もするけれど、ふんわりとした泡が肌に触れるのが心地いい。泡のおかげで湯も冷めにくいのか、温かいままだ。
ここで手足を思い切り伸ばしたいところだが、そうも出来ない状態なのがいささか不満ではある。
何故なら自分よりも体躯の大きい男が対面にいるからだ。さほど大きくもない浴槽に大の男二体がひしめき合っている。
「……狭い」
「仕方ない」
「……いい加減湯船から出たらどうだ」
「なんで俺が。後から来て、無理矢理入ってきたのはあんただろう」
「お前がすぐに出ると思った」
「……自分勝手にも程があるぞ。ヘンテコな入浴剤は入れるし」
「ふん」
泡を掬い、ふうっと大典太に向かって吹きかける。
飛んできた泡に大典太は顰めっ面をするが、何も言っては来なかった。身動げばちゃぷんと波立つ水面。揺れる泡の隙間から、大典太の膝が覗いている。にゅっと伸びているそれを見て、無駄に脚が長いことだ、と思うと同時に、ちょっとした悪戯心がわいてきた。泡で底が見えない湯船の中、足をそろりと動かした。目指すは、そう。大典太の股間だ。
ある程度伸ばしたところで、つま先がふにゃりと柔らかいものに触れる。
「っ、おい……」
焦ったような大典太の声に思わず口端を吊り上げた。
「だらしなく脚を広げてるからだ」
足の裏で強弱をつけて擦ったりしているうちに、柔らかさはあっという間に無くなっていった。すっかり固くなったそれを両足の裏で挟んだり、先っぽを爪先で突いたりして弄ぶ。
「あんたなぁ……」
熱の篭った声とともに腕を掴まれ、強く引っ張られる。腕の中に閉じ込められたら最後、逃れることはできない。ありったけの力を込めて腕を振りほどき、立ち上がろうとしたが、つるりと足が滑ってしまう。不幸にも泡風呂入浴剤のせいで浴槽の底が滑りやすくなっていたらしい。
ばしゃん! という派手な水音ともに鬼丸は浴槽の中で転けてしまった。反射的に手は浴槽の縁について、顔面から湯船に突っ込むのは避けられたが、大典太の方へ尻を突き出した四つん這いの格好になってしまった。つまり彼の眼前には、鬼丸の尻があるわけで。
「……いい眺めだな」
溶けかけた泡に塗れた尻を大典太の手にがっちりと鷲掴みにされる。そのままむにゅむにゅと揉みしだかれて、ふ、と生暖かい吐息が後口にかかった。逃げなければ……! と思うのに、身体が何故か動かない。
「ま、まて……」
そう言う自分の声にもどこか期待が混じっていて、先をねだるように尻を揺すってしまう。
「待てない」
尻肉を割り開かれ、ぬるりと生暖かいモノが後口に這わされる。軟らかく弾力のある舌がすぐに入口をこじ開けて、熱い粘膜を直接掻き回す。前にも手が回されて、泡でぬるつく陰茎をくちゅくちゅと擦られ、鬼丸は背をしならせて喘いだ。
「やっ、ぁ、だめ……、ぁ、ああっ!」
後ろに指も入れられて、浴槽を掴んでいた腕からかくりと力が抜ける。そのタイミングで大典太が、ふにゃふにゃになっている鬼丸の身体を抱き寄せて、腕の中に閉じ込めてしまった。
背後からぎゅっと抱き締められてしまえば、身動き一つ出来なくなる。憎らしい程の馬鹿力……戦闘以外で発揮するなと言いたい。
「……離せ」
「駄目だ」
大典太の手が鬼丸の顎をすくい、後ろを振り向かせる。湯気で湿り気を帯びた唇に口付けられ、浴室内に互いの口を吸い合う水音が大きく響く。口を吸ってる間にも手は胸や腹を撫で回してきて、嫌でも身体は淫らに高ぶっていった。
「あ、んんッ、あ、ぁっ」
「しっかり温まってから出ような」
ぎゅうと乳首を摘まれたら、もうなにも言い返せなかった。
――そうして、身も心も温まった頃、湯船の泡は激しい動きに負けてほとんどが消え失せ、すっかりぬるくなった湯だけが残っていた。