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「……おい」
茹だるような暑さの中、黙々と畑周りの草むしりをしていると、頭上から声が降ってきた。顔を上げると、赤茄子の入った籠を抱えた大典太がこちらを見下ろしていた。今日も大量収穫だったようだ。また夕餉は赤茄子ずくしか……と鬼丸は内心げんなりしていた。嫌いではないが、さすがに飽きてくる。額を伝う汗を手ぬぐいで拭いながら、「何だ」と素っ気なく返した。
「……見えてるぞ」
「あ……?」
何がだ、と続けると、大典太は黙ったまま、鬼丸の腰あたりを指差す。
「……尻が見えている」
そう言われて、腰を触ってみると、内番着の下衣がしゃがむことにより引っ張られて、腰から尻の上部分が剥き出しになっていた。上着も裾が長いわけではないので、余計に露出していたらしい。そんな状態になっていることを全く気づいていなかった自分が恥ずかくて
「……どこを見てるんだ、この助兵衛」
と吐き捨てるように言ってから立ち上がると、ずれた内番着をごそごそと直した。その様子を黙って見つめる大典太の目がギラついていることに、この時の鬼丸は気付いていなかった。
「……何をぼうっとしている。赤茄子を早く厨へ持っていけ」
鬼丸がそう言うと、大典太は持っていた籠を不意に足元へ置いた。そして、
「……来い」
と低い声とともに、鬼丸の手首を強く掴んだ。どこへ行くんだ、と戸惑う鬼丸をよそに、大典太は人気のない場所へと向かっていった。
「う、ん、ンッ……」
人目につかない木陰の下。陽の光は遮られ、吹き込む風はほんの少し涼しい。けれど、互いの身体を密着させた状態で口吸いをしている二人にとっては、持て余す熱を冷ますに至らない。
口づけを続けたまま、大典太の手が上着の裾から差し込まれて、ふっくらとした胸筋を揉んでくる。揉まれながら指の腹で乳首を押されて、鼻にかかった吐息が漏れてしまう。固くなった乳首をいじられている間に、下半身へ熱が溜まっていくのを感じて、堪らずに腰を揺らした。
「は、ぁ……っ、んん……」
「なぁ、していいか?」
「……最後まではナシだぞ」
「分かってる」
そう言う大典太の手は、相も変わらず胸を揉み続けている。触り方がしつこいので、無理矢理手を引き剥がしてやった。
(……本当に分かっているのか?)
と疑いながらも、内番着を下着ごと足元まで下ろすと、近くの木に手をついて、尻を大典太の方に向ける。
「は、早くしろ……」
こんな真っ昼間から、こんなところで、何でこんな格好をしなきゃならないんだ。するなら早く終わらせて欲しい。いつ誰に見られるかも分からないのだから。
「……何か滑りのよくなるものがあればいいんだがな」
「あるか、そんなもの……」
「まあ、そうだな」
むに、と尻肉を掴まれて、思わず身体が強張る。そして、双丘の狭間にあてがわれる熱いモノ。馬鹿みたいに固くなっている。コレで腹の奥をめちゃくちゃに突かれたら……と不埒なことを考えたが、すぐに頭の中から消し去った。外で最後までなんか冗談じゃない。おまけに真っ昼間の野外。誰か来るかも分からないというのに。尻ズリでさっさと射精させて、満足させたら、この行為はお終いだ。
そんなことを考えているうちに、ぱちんぱちんと尻肉を打つ音の間隔が小さくなってきて、もうそろそろか、と思っていたら、ぴたりと大典太の動きが止まる。そして、先走りで濡れた先っぽが、まだ閉じたままの尻穴に擦り付けられた。
「……っ、おい待て。最後までしないと言っただろう」
「……鬼丸、やっぱりあんたの中に入れたい」
「ふざけるな。しないものはしない」
「頼む、お願いだ……」
そう言う大典太の声は、今まで聞いたことないぐらいに切羽詰まり、その上、幼子がするようなお願いの仕方を目の当たりにして、心ならずも胸がきゅんきゅんとしてしまった。こんな事で絆されるなと自分の理性は訴えるが、身体はじわじわとよろしくない方向に疼き始めている。全くしたくないと言えば、嘘になる。しかし、今ここで最後まですると後始末やらなんやらが面倒だ。今の大典太の余裕のなさを見ていると、確実に腰が死ぬくらいヤられそうだ。内番がまだ終わっていないのだから、それは駄目だと言おうとしたら
「すき、好きなんだ、おにまる……」
と耳元で囁かれて、もう何もかもが駄目になった。卑怯者め……! と言い返す間もなく、口が勝手に動いていた。
「わかっ、た……から、はやくしろ……」
完璧に負けてしまったのだ。己の肉欲と、大典太のおねだりに。承諾を得た大典太はその場に跪くと、尻肉を掴んで開いて、きゅっと閉じられている桜色の後口に口付けた。穴の形が縦に割れてしまっているそこをこじ開けるように舌を挿入して、くちゅくちゅと解し始める。
「あ、ああっ、ん、ンッ!」
後ろを舌で掻き回されながら、前に回された手が竿をゆるゆると扱く。先走りを零す割れ目を指でぐりぐりされて、柔らかな袋をきゅうと吸われると、もっと、とねだるように尻が揺れてしまう。ちゅくちゅくと粘膜や肌を吸いしゃぶる音が、燻り始めた性感を恐ろしいほどに高めていく。
「あぁあ……ぁ、ん……、みつ、よ……」
自分でも嫌になるくらいの甘ったれた声で、男の名を呼んだ。肉体も心も、飢えた獣のように彼を欲している。熱いモノが腹の奥に欲しくて欲しくて仕方がない。堪らずに震える手を尻に伸ばして、ひくつく穴を拡げて見せた。
「んっ……もう……欲しい……」
「ああ……」
大典太の声は興奮で微かに上擦り、下を緩めている衣擦れの音も忙しなく、彼の余裕のなさが伺えた。口淫で十分に蕩けていたソコに、望んでいた熱があてがわれる。先が入口を開いたかと思うと、一気に奥まで入れられ、雁首で撫で上げられた内壁は瞬く間に甘い快感で満たされた。
「ああ……ッ!」
「くっ……」
軽い絶頂で収縮する内壁をものともせず、大典太は抽挿を続ける。がっちりと腰を掴んで、ぱんぱんと容赦なく中を穿った。大典太の激しい責め立てに、だらしなく開きっぱなしの口からは嬌声が迸り、端からは涎が伝い落ちる。ここが外だということも忘れて、獣のように交じり合う。ただ気持ちいい。それだけで頭の中はいっぱいだった。
前立腺裏と最奥を容赦なく突かれまくる。ガクガクと激しく身体を揺さぶられ、真珠色の髪を振り乱しながら、鬼丸は喘ぎ悶えた。
「あっ、ぁあ……だめっ、んっ……きもち、い……ッ、あ、あぁああっ!」
最奥まで突き入れられたモノで、女のように達してしまう。絶頂の余韻に浸っている間に奥へ中出しされると、それを取り込むように中はぎゅうときつく締まる。腰から下に全く力が入らず、少し柔らかくなった陰茎からはとろりと蜜が滴り落ちた。
「は……、ぁ、あ、ん……」
「……鬼丸」
湿った吐息とともに、耳元で甘く囁かれて、背筋がぞくぞくした。ぬる、と舌先が耳朶に這わされると同時に、腰へ回されていた大典太の手が角へと伸ばされる。
「や……っそこ、やめ……ッ」
達した後は何故か角の感度が上がる。当然、大典太はそれを知っているので、角の根本や先っぽをいやらしい手つきで愛撫してくる。触るな、と言いたいが、口はうまく動いてくれない。ただ、熱と甘さの残る吐息を零すばかりだった。角を触られているうちに、また腹の奥がずくずくと疼き始め、それを大典太に察せられないようにと、腕の中から逃れようとするも、がっちり抱き込んでいる彼の腕はビクともしなかった。
「んっ、ぁ……もう離せ……! 早く戻……」
そこまで言ったところで、中に入ったままのモノが再び大きくなっているのに気づいた。
「……何で復活してるんだ」
「……俺の意識ではどうにもならん。すまんな」
そう言うと、大典太は猛ったモノを中から引き抜いた。質量の喪失に一瞬気を抜いていたら、草地の地面へと押し倒された。雑草と土の匂いが鼻をつき、身動げば背中に当たる小石が痛い。いつもなら、柔らかな褥で抱かれるのに。こんな地面で、髪も服も汚れてしまうじゃないか。最悪だ。けれども、今は汚れることがどうでも良くなるぐらい、男の熱と自身の淫欲に頭を溶かされてしまっていた。のし掛かってきた大典太を押し退けることも出来ないまま、邪魔な下衣は脚から引き抜かれて、柔らかな後口に怒張がずぶりと捩じ込まれた。
「ひっ……、ぁ、ああっ!」
片脚を掬われて、さっきと同じか、それ以上の激しさで腰を打ち付けられる。口は意味のない母音を紡ぐばかりで、そこに思考というものは既になかった。鬼丸はされるがままに嬌声を上げ続け、突かれては揺れる爪先をぼんやりと眺めていた。
大典太の肩越しに見える木漏れ日がやけに眩しい。快楽の涙で滲み始めた瞳に映る木の影は、段々と光に溶けて薄くなっていく。
大典太が二度目の精を体内に吐き出す頃、鬼丸の視界は眩いばかりの白で覆い尽くされた。
鬼丸にとって全くの不本意ではあったが、初めての野外で火がついた二人は、あの後も『野外戦』をしっかりたっぷり楽しんでしまった。おかげで、鬼丸の腰は完全に死亡し、鬼丸にがっつり搾り取られた大典太はずしんと重い痛みを股間に抱えていた。おまけに、身体も髪も服も泥やら草やら体液やらで汚れまくっている。早く風呂に入って何もかもを洗い落としたい。
こんな筈じゃなかったのに、情と欲に流されたら、ロクなことにならない。流されてしまった自身に苛つきつつ、鬼丸は小さく舌打ちをした。
「……汚れたじゃないか」
「そうだな」
「……泥だらけじゃないか」
「……ああ、分かってる」
「……はやく、風呂」
そう言って、鬼丸は自分をおぶって歩いている大典太の項にがぶりと噛み付いた。ぎち、と牙をわざと食い込ませたら、「痛いぞ」と抗議されたが、しばらく噛み続けてやった。
(……鬼の甘噛みか)
痛いのは痛いが、多少のくすぐったさを感じる噛み方に、大典太は密かに微笑うのだった。