Pinned Post
ほんのりと暖かくなった春の朝日が差し込む寝室の褥の中で、寝起きの鬼丸は困惑していた。
(……何だこれは)
外の天気とは正反対に、鬼丸の心中は穏やかではなかった。
何で自分は裸なのか。部屋の中をぐるりと見回すと畳の上に無造作に置かれた自分の夜着があった。当然、脱いだ覚えなんかない。
(……酔っていたからか)
昨夜のことをふと思い出す。いい酒が手に入ったからと、大典太とのところへ行ったはいいが、ちびちび飲めと言ったにも関わらず、奴は酒を半分ほど一気に呷り、それにキレて自分もその残った半分を全て飲み干したのだった。そこからの記憶はまったくない。恐らく酒がすぐに全身へ回って、酔い潰れてしまったのだろう。
不覚だった……。とんでもない醜態を晒してしまったな、と二日酔いでズキズキ痛むこめかみを押さえた。
(最悪だな……)
これは一日中響くなと頭を抱えていたら、もそりと掛け布が動いた。自身の寝起き姿が衝撃的すぎて今まで気づかなかったが、傍らに誰かがいる。
「ん……朝、か?」
やや掠れているが、確実に聞き覚えのある声に、嫌な緊張が走った。
「ああ……あんた、起きてたのか」
そう言って、小さくあくびをした大典太が身体を起こす。彼もまた全裸だったので、死にたくなった。この状況で昨夜何をしたかなんて、十中八九予想がつくが、とりあえず訊いてみる。そうでないという僅かな望みをかけて。
「おい……」
「ん?」
「何でおれたちは裸なんだ……」
「……覚えてないのか」
「まったく覚えてない」
「朝餉代わりに教えてやるよ。酔っ払ったあんたが俺の上に乗ってきて、服脱いで、尻の穴に俺の」
「もういい。喋るな。聞きたくもない」
ああやっぱり、と嫌な予感が確信へと変わった。恐らく大典太の言っていることは事実だろう。やらかしてしまったことに対する自己嫌悪が半端ない。
頭は割れるように痛いし、気持ちも悪い。おまけに胸も痛い。心が奈落の底へ落ちていく気分だ。
(……胸?)
そこで、胸の違和感にふと気づいた。胸元を見下ろすと、乳首が少し赤くなっていて、ふっくらと腫れている。
「……何か、ここがヒリヒリするんだが」
恐る恐る乳首に触れてみると、びりっと鋭い痛みが走った。
「そりゃ……俺が吸ったり噛んだりしたからだろ」
「あけすけに言うな、馬鹿」
「事実を言っただけだ」
「認めたくない事実だな……」
そうは思うものの、この乳首の痛みが、大典太に弄られまくったということを間違いなく示している。
意識を飛ばしている間に身体を好き放題弄られたのかと考えたら腹立たしくもあるが、酒に呑まれた自分も大層な間抜けなので、さして相手を責め立てる気にもなれない。
「……馬鹿はおれか」
「……お互い様だ」
はあ、と重苦しいため息が二つ重なった。
まだお互い困惑しているが、この状況は間違いなく現実なのだ。考え込んでも、どうしようもない。しばらくぼうっとして、少し落ち着いてきたところで、急に喉の乾きを覚えた。
深酒のあとは必ず水が恋しくなる。このままここに居ても気まずいので、水を口実に出ていくことにした。
「水……飲んでくる」
酒の残る重い身体に鞭打って、立ち上がろうとした時だった。
「……っ!」
とろ……と何かが尻の谷間を伝う感触がして、上げかけた腰を再び敷き布へと慌てて落とした。
「……どうした?」
そんなこと訊くなと言いたいが、下手に隠してもどうせ分かってしまう。
「……粗相を……したかもしれん」
尻から何か出てきたとか流石に言いづらい。今の思考力で考えられる精一杯の最適解はこれだった。
「粗相……?」
大典太はしばらく考えた後、合点がいったように、「ああ、そういうことか」と言うと、いきなりこちらにのし掛かってきた。
「おい、何を……、っ!」
片方の足首を掴んだ大典太が、力の抜けた脚を大きく広げた。彼の眼前に晒されたそこが、無意識にきゅっと締まった。一番見られたくない秘部をまじまじと見つめられ、あまりの羞恥に身体中がかあっと熱くなる。
「昨夜、中に出したのが漏れてきたんだろ。掻き出してやるよ」
中に出した、という台詞に精神が灼き切れるかと思った。当然、恥ずかしさで、だ。
「そ、そんなこと、しなくていいっ!」
「じゃあ、あんたが自分でやるか? このままにしてたら腹壊すぞ」
有無を言わさず、大典太の指が後ろに突っ込まれ、指一本だけではない圧迫感に悲鳴が上がる。
「うあっ……、あ……やめっ」
「お、出てきた」
くぱ、と入口を拡張され、内側の粘膜が空気に触れるのが分かる。そして、体内から熱いものが流れていくのも。
「……ぁ、く……」
「奥に残ってるな」
根元まで捩じ込まれた指が、肉壁を掻き回すようにぐちゃぐちゃと縦横無尽に動く。本当に掻き出す気があるのかという乱雑で荒っぽい動きに、文句の一つも言いたくなったが、指の腹がある箇所に触れた途端、背筋に突き抜けるような快感が走って、何も言えなくなった。そのまま指は感じるところを刺激し続け、やめてくれ、と訴えようとしても、口を開けばひどく甘ったるい声しか出せない。
「うぁっ、や……っ、ぁ、あ」
「……いやらしい声だすなよ」
「好きで出してるわけじゃ……ぁ、ンっ、そこ、やっ……ぁ、あ、んん……ッ♡」
指を咥えているところから拡がっていく蕩けるような感覚に、頭が真っ白になる。射精を伴わない絶頂は強烈過ぎて、自然と目尻から涙が溢れてきた。内腿はびくびくと震えて、爪先はぎゅっと丸まる。
「……ん、んっ、あぁ……」
「あ、悪い……」
本気でバツが悪そうに謝ってくる大典太に居た堪れない気分になる。向こうはそんなつもりじゃなかったのに、こっちが勝手に感じてしまったのが馬鹿みたいではないか。
「謝るな……」
「いや、でも……すまん」
中に入ったままだった指がずるりと引き抜かれる。その刺激にも感じてしまって、少し萎れた陰茎の先から蜜がとろりと溢れ出た。まだ残る絶頂感を深呼吸しながら、どうにか落ち着かせていると、大典太が
「……ちょっと、厠行ってくる」
と言って、立ち上がろうとしたので、その腕を掴んで阻止する。彼の股間に目をやれば、そこは見事に反り返り天を仰いでいた。
「……元気なことだな」
少し皮肉を込めた口調で言いながら、大典太の竿を力まかせにぎゅっと掴む。
「うぐっ」
「昨夜好き勝手したくせに……今更だろう」
根本から先っぽに向かってゆっくり撫で上げると、どくんと脈打って更に容積を増した。 血管が浮いて見えるまで膨張したソレに、こくりと小さく喉を鳴らす。
「……いいのか?」
「好きにしろ。ただし、中で出すな」
「……努力する」
言うが早いか、すっかり蕩けた秘部に怒張が充てがわれ、そのままずぶりと体内へ捩じ込まれる。その早急さに大典太も余裕がないのだと感じて、思わず苦笑いした。しかし、そんな余裕も束の間で、太いモノで奥を激しく突かれたら、何も考えられなくなった。
快楽の波にのまれ、溺れて、沈んでいく。
「……中に出すなと言った」
「努力はした」
悪びれた様子のない大典太の腹に、拳を思い切り打ち込んでやった。