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デイビットがフィールドワークに出かけてから、一週間くらい経つ。もうそろそろ帰ってくる頃だろうか。彼はふらっと居なくなって、ふらっと帰ってくる。それは自分もそうなので、そのことについてどうこう言うつもりもないが、彼がここから出て行くとき、部屋をとっ散らかしたままにしていたことは、潔癖の傾向があるテスカトリポカにとって、どうにも腹に据えかねることだった。散らかしたままにしておくのも苛々するので、結局はテスカトリポカが部屋の片付けをする羽目となった訳だ。だから、帰ってきたら何かひとこと言ってやりたい、言わないと気が済まない。そういえば、前にも似たようなことがあったな、今回は少しキツめに言ってやるか……と、簡素な造りの部屋の中、窓際で紫煙をくゆらせていると、扉が静かに開いた。
そちらへ目を向けると、フィールドワーク帰りのデイビットが佇んでいた。
「おう、デイビット。帰ってきたか」
「……ただいま、テスカトリポカ」
少しくすんだ目元、手入れの放棄された髪の毛、フェイスラインにうっすらと生えた無精髭。随分と野性味が増しているデイビットの姿にテスカトリポカは思わず口元を緩めた。ベビーフェイスには不似合いな髭だ。だが、からかってやる前に言うべきことがある。
「オマエ、部屋片付けずに行っただろうが」
「……うん」
舌足らずな返事とともに、デイビットは目を擦り、こちらへ向かってふらふらと歩いてくる。覚束ない足元、虚ろな瞳。ああ、これはまずい——とテスカトリポカが察するのと同時に、デイビットの膝がかくりと折れた。こちらに向かって倒れ込んできた身体を抱き留め、しばらく様子を伺っていると、すうすうとやや大きめの寝息が聞こえてきた。ガキかよ……いや、ガキだったな、とテスカトリポカは呆れ混じりにため息をついた。
とりあえず、こいつを風呂へぶち込むことにする。内心、相当に面倒だと思っているが、汚れたまま放ったらかしにしておく訳にもいかない。子守りかよ、と思いながら、小さく舌打ちをすると、浴室へ向かった。
数分後、派手な水音とともにデイビットはようやく目を覚ますのだった。そのまま、身体を雑に洗われながらのお説教タイムとなった。